PJ: 紙野 武広
危険地取材のイロハを学ぶ〜特訓から実践まで〜(下)
2010年09月23日 08:23 JST
台風9号の被災地現場を取材する紙野氏。(撮影:小田光康、9月9日) 
【PJニュース 2010年9月23日】前回の甲武信岳での特訓を終え、さっそく本番の時迎えることとなった。9月8日、日本列島を襲った台風は関東地方に上陸。被害の大きかった神奈川県山北町では、民家一軒が土砂で半壊し、3名が重軽傷を負った。詳しいことは別の記事を参照されたい。
「台風で被害にあった山北町に明日行く。知人宅に被害があった。紙野君も一緒に行かないか?」
9日、いつものように大学の友達と飲んでいた私に小田さんからの電話が入る。悩む間もなく、急いで家に帰りシャワーに入って酔いを覚ます。現地の状況を一通り調べ、ドタバタと支度を始める。しかし、まさかこんな早く、そして、こんな状態で本番を迎えることになるとは思ってもいなかった。
早朝に小田さんと合流し、山北町へ向かう。町役場で現地の状況を聞くが、ニュースの情報以上のことは誰も知らなかった。とにかく、危険ならばすぐに引き返してくださいというだけであった。現場近くに入ると、あちこちで土砂崩れの形跡があり、今なお復旧作業が続けられていた。ダム放流中の標識が点灯し、川は濁り水量も増していた。私たちは民家が土砂崩れの被害にあった世附地区へ行く。その周辺の道路のガードレールには流木が並んでいた。この一帯が川となっていたのだ。
土砂崩れの被害にあった湯山さん(87)宅は家の半分が見事に土砂で流されていた。被災地に初めて足を踏み入れた私はその迫力に圧倒され、しばらく何も考えることができなかった。まだ取材者という感覚が身についていないのだろう、読者目線でその現場に見入ってしまっていた。現場の地面がぬかるんで足場が非常に悪かった。この先はそれなりの服装と装備が必要となる。
周辺の被害状況を探るため、私たちは世附川沿いの林道に入っていった。実際の現場はどういう状況なのか、何が起こるか分からない。どこが安全でどこが危険かを自分で判断して歩くしかない。この辺りの電柱はほとんど倒れており、林道はあちこちで崩れて川の一部と化していた。林道がまるまる陥没して消えているところもあった。
ロープを使って山を少し登りながら陥没した箇所を避けていくしかない。当然、ロープの使い方を一つも知らない人間はここまでの取材しかできないことになる。ロープを取り出し、覚えたての登攀術を活用する。特訓の成果が試される時が来たのだ。陥没した穴の深さは2-3メートル程度。
すこし無理をすればロープなしでも行けるかもしれない。だが、この少しの無理が命取りになることが多い。足を滑らせ穴に落下すれば、大ケガは免れない。大工の人が10階建ての建物より2階建ての建物で多く事故を起こすのと同じである。要するに、そのちょっとした油断が一番危険なのだ。
ロープは決して安全を確保するだけの道具でなく、事故を予防、または、それを最小限にとどめるための道具でもある。面倒ではあるが、完全装備でこの難所に挑む。やはり本番はトレーニングのときより緊張したが、ロープをつけていたので、落ち着いて渡り切ることができた。
こうして危険地取材の本番を終えたわけであるが、実際の危険地帯では何が起こるか分からないというのが一番の恐怖であった。というよりむしろ、その状況を人々に伝えるために取材しに行くのだから、取材者が事故にあっては話にならない。白バイの運転手が絶対に事故を起こしてはならないのと同じである。
今回の訓練、そして、本番を通して私が学んだことは、何よりも装備の大切さである。少なくとも、危険地に入るときは、服装だけでも整えなければならない。だが、現場にスーツでやって来る現役の記者の人たちに、こうした意識があるとは思えない。日本テレビの記者らが遭難したことも、基本的に記者らの意識の低さが原因としてあるのではないだろうか。【了】
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