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PJ: 紙野 武広

タウンシューズで雲ノ平へ(1)
2010年09月03日 15:03 JST


土砂が大量に流れ込む高瀬ダム(撮影:紙野武広、8月26日) 

【PJニュース 2010年9月3日】8月26日、東京の某大学院生である私はPJnews編集長の小田光康さんとそのご友人の川村さんの三人で北アルプス裏銀座ルートから雲ノ平を目指した。高瀬ダムから北アルプス三大急登のブナ立尾根を登り、烏帽子小屋で一服。そこから永遠と続く稜線を歩き野口五郎小屋で一泊した。2日目は水晶小屋を通り、念願の雲ノ平に到着。リニューアルしたばかりの雲ノ平山荘に泊まり、翌日下山するという往復2泊3日の少々急ぎ足の計画である。

今回、登山経験わずか一回の私が北アルプスの最奥に位置する雲ノ平にまで至ろうというのだから、恐れ多いこと甚だしい。周りの登山者の皆さんはご年配の方が多いようだが、装備は完ぺきだ。その中で一人だけ、山の事を何も知らず、編集長に引き連れられ、タウンシューズを履いて呑気な格好をしている私。自分が上京してきたばかりの青臭い田舎者のように思えた。

一抹の不安を抱えながらも、「俺はまだ若い」と粋がり、さっそく急登に食らいつく。登り始めて30分、僕の体に異変が生じる。息があがり、足がだるく、顔もあがらず自分の足下しか見えない。日ごろの怠惰な生活のせいでだらしなく垂れ下がる下腹と無駄な肉に圧迫され萎縮した惨めな心臓が悲鳴を上げているのだ。そして、尋常でない量の汗が穴という穴から湧き出てくる。おそらく半分以上が体の異変に反応して出た冷や汗だったと思う。

これが北アルプスの三大急登なのか。私は思わず小田さんに休憩を申し出る。

「もう登れないよ、どうかお許しを。ごめんなさい、ごめんなさい…」

私はわけも分からず、心の中でみんなに謝った。同行の小田さんと川村さん、他の登山者の皆さん、まだ会った事もない山小屋の人たち、そして山の神様に許しを求めた。若さにうぬぼれ、意気揚々とタウンシューズなど履いて来た自分の愚かさを嫌気がさす。だが、開始30分でそんな事を口が裂けても言えないので、水分を補給してまた登り始める。

するとどうだろう。苦痛を堪えて歩き続けること1時間あまり。大量の汗がおさまり、体がどんどん軽くなっていくのが自分でも分かる。尾根の半分ぐらい登ったあたりで気温がグンと下がり、呼吸も整ってきた。顔もあげられるようになり、周りの景色を見て実に爽快な気分になる。そして、尾根をだいたい登り切ると稜線が出てきて雲がすぐそこに見える。空気が澄んで、稜線の斜面からの上昇気流が自然のエアコンとなって私の火照った体を冷やしてくれる。

だが、向こう側の山を見て私はある違和感を抱いた。山が白いのだ。至る所で山が崩れ、白い岩肌が日の光を反射して余計に白く見える。この崩れた土砂がすべてが下に見える高瀬ダムに堆積していくのかと思うと、東京電力が行っている土砂撤去作業も途方もない無駄な作業に思える。そもそもダム建設が山の崩壊を深刻化しているという説もある。このことについてはまた他で書くとして、何はともあれ私はこの急登を登り切ったのだ。

思わず叫びたくなるような歓喜の瞬間を迎え、軽い足取りで烏帽子小屋へ向かう。温かい緑茶とお菓子をいただき、再び喜びを噛み締める。小屋の皆さんのご好意に感謝して、一同は野口五郎小屋へ目指して出発した。【つづく】

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PJ 記者