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PJ: 林田 力

山本剛嗣弁護士の国家公安委員任命への疑念
2010年06月05日 07:50 JST

【PJニュース 2010年6月5日】鳩山由紀夫前首相が5月27日、弁護士で元日本弁護士連合会副会長の山本剛嗣氏を国家公安委員に任命した。23日付で退任した吉田信行氏の後任である。6月2日に辞任を表明した鳩山首相にとって残り少ない注目すべき仕事となった。山本氏の任命は政権交代の成果であるが、その政治的意図には警戒が必要である。

これまで国家公安委員のうちの一名はマスメディア経営幹部の天下り指定席であった。退任した吉田氏は産経新聞社専務、その前の荻野直紀氏は読売新聞論説委員長、さらに前の新井明氏は日本経済新聞社会長である。そこに弁護士の山本氏を任命したことは画期的である。

国家公安員会の任務は警察法第5条に規定されている。

「国家公安委員会は、国の公安に係る警察運営をつかさどり、警察教養、警察通信、情報技術の解析、犯罪鑑識、犯罪統計及び警察装備に関する事項を統轄し、並びに警察行政に関する調整を行うことにより、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持することを任務とする」

国家権力を監視すべきマスメディアの経営幹部が、警察という国家権力の暴力装置を管理するポストに就く。自社の経営幹部が公安委員になっていて、警察に都合の悪い報道ができるだろうか。国家権力の側にとってはマスメディアを飼いならすための餌になる。

警察とマスメディアの腐敗・癒着は既に様々な指摘がなされている(寺澤有『報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの』インシデンツ、2009年など)。問題は記者クラブという現場レベルだけでなく、国家公安委員会という最上位にも存在する。その暗黙の慣行を打ち破ったことは鳩山首相の業績である。政権交代が実現した意義を国民に実感させるものである。

一方で国家公安委員はマスメディア経営幹部以外ならば誰でもよいというものではない。山本氏がどのような立場の人物であるか分析することなく、マスメディア幹部以外であることをもって絶賛するならば軽率の謗りを免れない。

警察とマスメディアの癒着が問題と指摘したが、それ以上に警察と弁護士の癒着は問題である。刑事訴訟では警察と弁護士は対立関係にある。日本では被疑者の防御権が十分に保障されておらず、志布志事件や富山連続婦女暴行事件などの冤罪事件が繰り返されている。その点では人権意識の高い弁護士が国家公安委員に就任することは好ましい。

一方で弁護士は告訴状提出の代理人になることもある。ここでは弁護士は警察権力を使って、特定の私人を逮捕させようとする立場にある。そのような立場となりうる弁護士が警察権力に影響を及ぼすポストに就くことは恐ろしい結果をもたらしかねない。幸か不幸か、現時点では弁護士は警察に強い影響力を有していない。しかし、特定の弁護士に依頼すれば告訴状が受理され、警察は必ず捜査するというようなことになったら悪夢である。

次に山本氏個人の立場が問題となる。山本氏は先の日弁連会長選挙で改革を唱える宇都宮健児氏に敗北した人物である。山本氏は主流派閥の支持を固め、選挙前は当選確実と見られていた。しかし、「市民のための日弁連」を掲げた宇都宮氏の改革姿勢が共感を集め、宇都宮氏が勝利した(林田力「宇都宮健児日弁連新会長の課題はモンスター弁護士の排除」PJニュース2010年3月27日)。

これは日弁連という狭い世界の出来事であるが、民主党の政権交代と同じように歴史的な転換点である。日弁連改革の旗手となった宇都宮氏の対立候補であり、派閥政治や反改革の象徴的存在となった山本氏をマスメディアの天下り指定席という慣例に反してまで抜擢する政治的意図が問題となる。

宇都宮氏の会長就任は日弁連改革のスタートに過ぎない。選挙には敗北しても派閥が消滅するものではなく、日弁連改革は守旧派による様々な抵抗に直面するだろう。それは鳩山政権が様々な障害に直面したことと同じである。その中で山本氏を厚遇することは、守旧派弁護士を活気付かせることになりかねない。天下り指定席の慣例を破ったというだけで絶賛するのではなく、その政治的意図を冷静に考察する必要がある。【了】

■個人ウェブサイト
林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』

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