PJ: 石川 雅之
鎌倉鶴岡八幡宮、蓮の花が見頃
2010年07月25日 05:15 JST
鎌倉鶴岡八幡宮の見頃を迎えた蓮の花(撮影:石川雅之、7月24日) 
【PJニュース 2010年7月25日】池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。(芥川龍之介『蜘蛛の糸』青空文庫)
7月24日は河童忌。その俳号にちなんで餓鬼忌とも言われる芥川龍之介の命日である。
昭和2年(1927年)7月24日未明、一日中書斎にこもって『續 西方の人』を書き上げた芥川は、同居する伯母に主治医にあてた「自嘲」と前書きした一句(「水洟や鼻の先だけ暮れ残る」)を記した短冊を言付けた後、致死量の睡眠薬を飲み自殺した。
その夏は、今年同様、「近年にない酷暑で、7月22日は(華氏)96度1分(摂氏36.1度)だった」(吉田精一『芥川龍之介』新潮文庫263頁 括弧注記者)とのことである。ところが「24日は前日来の酷暑にひきかえ、未明(午前2時頃)から雨がふり出し」、その「雨を聴きながら」、近代文学に大きな足跡を遺した異才は、独りひそかに睡眠薬をあおいで「夫人と床を並べて寝についた」と伝えられている(同前掲書)。
自殺の原因は様々に言われていて、吉田精一氏の見解は前掲書に拠られたいが、一般的には「ぼんやりした不安」に苛まれ自死に至ったとされている。
その芥川と少なからぬ関わりのある鎌倉は夏本番を迎え連日の大賑わい。随一の名所でもある鶴岡八幡宮にある源平池は、今、『蜘蛛の糸』の一節よろしく蓮の花が見頃を迎えている。
24日の早朝、まだ人影も疎らな中、足を運んでみると源氏池には赤の蓮の花が、平氏池には白の蓮の花が咲き並んでいた。匂いまでは、はっきりと嗅ぎ得なかったが、すでに咲き終わったもの、いま正に満開のもの、これから咲こうかというふっくらとした蕾など、あらゆる表情をみせる蓮の花々に、80年以上前に自死した或る作家を想い、今年の酷暑と、もはやいつが始まりだったのかさえ明確には思い出すことさえ出来ない現況の「ぼんやりした不安」を重ねたことだった。
7月24日は「我鬼忌は又我誕生日菓子を食ふ」という句を残した俳人、中村草田男の生まれた日でもある。
「萬緑」という美しい季語を生み出した草田男は、自然を詠じつづけ、妻を激烈に愛して、文学史的には「人間探求派」と括られ、82歳の天寿を全うした。夏季題のその有名句は「はまなす(玫瑰)や今も沖には未来あり」(『長子』)で、この句に見られる青春性というか明日をみつめる憧れに満ちた精神は草田男の真骨頂である。「不安」多い時代状況だからこそ、あらためて今、気力を振り絞ってでも草田男の遺した精神性を回復したいものだと心に刻み、源平池を後にして拝殿に向かう。
本殿に続く大階段を上ろうとすると、この春先に突如倒れて大きなニュース(参照:「再生への祈り 鶴岡八幡宮の大銀杏」http://www.janjannews.jp/archives/2948890.html)となった大銀杏の根元部分を今を盛りと緑の葉が覆い、多くの人の祈りが託された「孫生え(ひこばえ)」が頼もしく育っていた。
どんな状況でも、諦めなければ再生は可能、という思いを一層強くさせる光景がひろがる盛夏の鎌倉である。【了】
■関連情報
鶴岡八幡宮の蓮花の見頃は8月上旬まで。花だよりの詳細は以下の公式サイトで。
http://www.hachimangu.or.jp/index2.html
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