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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記 - キルギス編(14)
2010年03月14日 07:04 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2010年3月14日】実は、こここそ、「突厥(トッケツ)の王と会って歓待された」と大唐西域地に玄奘が記した〈砕葉域=素葉域〉の跡なのだ。この仏教寺院の発掘でそれがはっきりした。「砕葉域」はどこにあったか? 学者間でああでもないこうでもない、と長い間議論されてきたのだが、この発掘でその地が確定されたのだった。

「砕葉域は此処だったんだ」と思ったら、感慨深いものがあった。

玄奘は西域記に、〈清池(イシク・クル湖)の西行五百余里。素葉域に至る〉と書き、「突蕨(トッケツ)の王は緑色の綾の衣服をまとい、額(ひたい)に一丈ほどの絹系を巻いて背後に垂らし、頭髪は露(あらわ)にしている。従者200人、みな錦の絹を着て、頭髪を編んで左右に垂らしていた」、と言っている。この土地は交易が当時盛んだったらしく、〈ここは諸国の商胡、雑居せり〉とある。

以上の記述と僕の見た地形を併せ考えると、結局、玄奘は以下のルートを辿(たど)ったことになる。

彼は長安を出て天山山脈南麗を辿り、〈トルファン〉・〈カシュガル〉、それから天山山脈越えをした。越えたところは〈凌山〉。この天山越えは難所中の難所で、「暴風奮発、沙を飛ばし、石の雨を降らし、遇者は喪没し、生を全うすること難し」と書いている。実際、彼はここで同行の従者や牛馬の多くを失った。

彼は、凌山越えを成し遂げ、山を降りきたところで〈大清池〉=イシク・クル湖を見た。それから湖の南浴岸を通ってこの〈アク・ペシム〉の城と都邑に辿りつき、突厥(トッケツ)国の王と会った。

そのあと、〈おそらくイシク・クル湖の1周を終えたら僕が向かう予定の〉カザフスタンの町タラス、ついでシムケントを経てサマルカンドに向かった。

「仏教寺院跡」なる赤茶けた遺跡、その掘り下げられた場所を見降ろしていたら、僕の脳裏に巻間よく見る〈玄奘の歩く姿〉の絵が浮かんだ。でも、この苛酷で熱い土地をあんな衣装ではとても歩けまい。もっともっとボロ服だったはずだ。そのボロ服で歩く姿も頭に浮かんだ。

小半刻も〈アク・ペシム〉に佇(たたず)んでいたが、日射でひっくりかえりそうになったので車に戻った。リーナはすぐに車を走らせて本道に戻ったが、やがて道は草木乏しい赤茶の山合いに入った。ここからはずっと登り道、延々と登り続けるとイシク・クル湖を見降ろせる峠に至る。両側の山々はひどく荒々しく、カラコルム・ハイウェイの山々を思い出した。但しここは断崖絶壁を辿るわけではないからこちらの方がずっと安全。リーナはかなりのスピードでその谷を登りつめる。

その途中、ひょいと頭に浮かんだことがある。どこかで読んだ。

この渓の崖には、かつて40数メートルもの巨大な寝釈迦の像が造られていた。その巨大な寝釈迦は、ソ連邦時代、三つだが四つだかに切り取られてモスクワだかエルミタージュだかに運び去られてしまった。ひどいことをしたもんだ!【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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