PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記 - 雲南からラオス編(40)
2010年02月03日 07:00 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2010年2月3日】「冷たい水がいいですか? それともお茶? 」
「お疲れでしょう? どこから? 中国? 向こうは寒いでしょォ。よく来てくださったァー」
おばあちゃんは矢継ぎ早にしゃべり、家の中をウロウロ、行ったり来たり、忙しい。
「まあ、ここへお座りなさい! 日本からおみやげ持って来ましたから・・・」
「えーッ、おみやげ? 何でしょう? うれしい!」
僕は荷物の中から、日本から持参の「しぼりの羽織」を取り出した。
「まぁ、着物! 浴衣? そう、羽織ねッ。朝、晩冷えるから、あたしこれを着るワッ!」おばちゃんはそれを羽織って大喜こび、僕まで嬉しくなった。
「もうひとつあるよ」
「えーッ、まだあるんですかァ! 」
僕は成田空港で藍染めののれんを買ってバックの底へ入れてきた。シシトウとトンガラシをデザインしたもので、なかなか粋なデザインだ。実は2年前の「さくらサウナ」は、飾り気のまったく無いオンボロ部屋で、いささか侘(わ)びしかった。成田空港でこののれんを見つけた時、これをあの部屋にかけたらちったァ見栄えするかな? そう思って買ってきた。
「ここの上の所へ棒を通して・・・。そうだね、ここにかけたらどうかな・・・」
僕がのれんをかざして見せたら、おばちゃんは「素適です! お客さんが見て喜びます!」と手を叩いた。
お茶をのみながら、この2年間の話をした。
別れた日本人の旦那はやはり1銭の送金もしてこない。電話をかけてもかからない。今はまたトラックの運転手をやっているらしい。大きくなったシンちゃんやナナちゃんの写真を私はこの間も送った・・・。手紙も出した。しかし返事はない。
「ナナちゃんも学校に上ったし、二人の学費は大変です。最近はタイの経済が悪くなって、マッサージに来てくれる人がめっきり減りました・・・」
そう言って、おばちゃんは少し暗い顔をした。
「でも仏様にお祈りして頑張ってるんですよ・・・。ほら、壁も塗りかえたでしょ。あの中2階も作った、あそこでシンちゃんが勉強するんです」。
「お足のマッサージをしてあげましょう・・・」とおばちゃん。
「あの、僕はシエンコックからスピードボートに乗って来たんで、体がガタガタだから、まず、サウナへ入りたいです」。そう言ったら、「済みません。お客さんが少なく薪代分だけ赤字になってしまうから、サウナはもうやめてしまったの・・・」と。
【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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