PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記「開かれた医療へ」(11) 日本精神病者の受難(その3)
2010年08月06日 14:45 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2010年8月6日】一方、残念なことに、“強制収容制度”の根幹であった旧法の「同意入院」制度が、「医療保護入院」と名前だけを変えて実質上そのまま残された。
精神病院は、過去、この制度を楯にとって患者からの退院要求を思いのままに退けてきた。だからこの制度は、百歩譲って残すとしても、従来より一層厳格なチェック条項をつけ加えるべきであった。だが、新法も抜け穴だらけで、これでは精神病院側の恣意がいままで通りまかり通ってしまうことになる。つまり、新法も精神病院の“囲いこみ”を法的にそのまま容認したのであった。
その結果、いま自由意志で入院する任意入院者の総数は全入院者の5割強にしかすぎない。おまけに当の任意入院者の半数近くが、いまだに閉鎖病棟の鉄格子の中に置かれているという体たらくである。
自由意志で入院しているのに何故鉄格子なのか?国は何故そのことを容認している。
これでは、「人権」の名が泣こう。
あれやこれや、見方の角度で「精神保健法」の評価は異なってしまうのだが、いずれにせよ、この新法の成立が従来型の精神医療制度を変えていく第一歩だったことは間違いない。
「精神保健法」は、「再び見直しをする」附帯条項に従い、1995年に新たな装いをこらし、さらに前進した内容を加えて生まれ変わった。即ち、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」、略称「精神保健福祉法」である。
この法には、精神障害者の自立や社会参加への援助などが更にはっきりと明文化され、それに対して市町村自治体が果たすべき役割まで明記された。
この「精神保健福祉法」は、福祉の視点が法体系のなかに初めて組み入れられたという点で特に重要であり、まさに「画期的」なものであった。
一体、どんな経緯と背景から、“精神病者に関する法律”の中に「福祉」なる文字が記されるに至ったか?私見だが以下にその経緯を述べる。
日本が精神病院一辺倒だった時代、国も精神医療者も、「精神病者のことは医学領域のことであって福祉の分野ではない」と考えていた。それ故に精神病院は病院という枠内で“医療行為”をやっているだけであったし、国は知的障害者や身体障害者の福祉には目を向けても精神障害者だけは除け者で、彼らに福祉の光を当てようとはしなかった。
そんな状況の中で、「精神障害者に福祉を」という声を発したのは「全家連」、即ち患者の家族達であった。全家連は、「精神障害者福祉法の制定」を早くからスローガンに掲げ、その実現に向けて動いた。そのために、「日本の精神障害者と家族の実態白書」を公表したり、50万人国会請願署名運動を展開したりする。
しかし、“精神病は医療であり福祉でない”式の考え方から、殆どの精神医療者はこの運動にそっぽをむいていた。国もこの家族会の声を無視した。だから、この運動は長いこと実を結ばなかった。
「福祉法」が制定されるようになるには、国がその考え方を変え、「医療も大事だが福祉も大事」「精神医療は医療と福祉が車の両輪」、そう考えるに至るまで待つしかなかったし、またそうなるには長い時間がかかった。
ずっと後になって国や精神医療者は考えを変える。
考えを変えさせたのは、全家連が全国各地に展開した「精神障害者共同作業所作り」の運動である。国を動かしたのは、彼らの“政治活動”ではなく、たゆむことなく続けられた“地域実践活動”であった。
全家連の「共同作業所作りの運動」は、日本精神医療改革運動のなかでもっとも高い評価を与えらるべきであると考える。何故かを以下に述べよう。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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