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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記「開かれた医療へ」(5)欧米諸国の「精神病者の再生」
2010年07月31日 06:41 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2010年7月31日】「欧米諸国の『精神病者の再生』」

欧米で精神医療改革の口火を切ったのはイギリスである。

第2次大戦下、ロンドンなどの諸都市はナチの爆撃に曝された。その時、精神病院は入院患者に「爆撃が終わったら病院に戻るように」と告げて、彼らを鍵の外へ出した。空襲が終わると、殆ど全員の患者が病院へ戻ってきた。

これは予想以上のことで、この経験は心ある精神科医をして「鍵とはいったい何だったのか」と考えさせる契機となった。

戦後、M・マクラミンやM・ジョーンズらを先頭とする先進的精神科医が、精神病院の開放・無拘束を唱えてその実践に着手する。彼らは戦後4年目にして早くも全開放制の実施を試みている。

彼らは、また、病棟の運営を“治療共同体”とする活動を始める。これは治療者と患者が同じ地平に立とうとする試みであり、“これまでの抑圧型専門家支配はもう行いません”という治療者側の意志表明でもあった。

こうした現場での実践は、病院の底に澱んでいた患者の生気を蘇らせ、彼らが病院から町へ出て移り住む流れを作りだした。

すなわちこれが、「開かれた精神医療」の始まりであり、精神病者の復権に向けての第一歩だった。地域へ戻ることで、彼らは、“私達は社会のゴミではない”、“社会の一員なのだ”と胸をはる第一歩を踏み出したのである。

イギリスでは、これら先駆者のあとに続いて、すべての精神病院が開放率を高める努力をした。その結果、1968年には、総入院者の90パーセント以上の者が開放処遇のもとで治療を受けている状況になる。

国家即ち政府も、病院とともに改革に取り組んだ。いや、むしろ政府が医療現場をひっぱったと言ってもよい。

イギリス政府は精神医療体系全体の見直しを行い、具体的な達成すべき目標を数値で掲げる。54年、保健省は「今後の10年間で10万床の精神病床を削減する」と発表、それに見合ったケア施設を地域に設置することを決めた。続いで61年、71年とさらなる病床削減を計画、遂には「長期的展望として精神病院の閉鎖の必要を確認する」と言明するに至る。

実際、イギリスの精神病床数は、55年の「人口1万に対し33床」から減少を続け、90年「1万:12床」、その後さらに減少して、もうとうに「10床」を切った。

この減少した分だけの入院者が病院を出て地域へ移り住んだわけである。

イギリスはまた、「地域化」のこの流れに合わせて、“精神病者に関する法律”も次々と手直しをした。強制入院と収容を目的とする法律から、病者の人権を守る法律、地域ケアを医療の主流とする法律へと、国家の主導でその内容を変えていった。

以上のような経緯をみると、イギリスの「開かれた医療」の構築は、“医療現場の改革実践”と“国家の方針”がうまく噛み合って有機的に結合し、現実的かつ計画的にすすめられていったことがわかる。イギリスらしい着実さだ。

イギリスが精神医療改革の道筋を世界に示したことの功績は大きい。

以来、欧米諸国はイギリスに学び、その時期、方法はそれぞれ異なったとしても、全ての国が「開かれた精神医療」を目指してその整備に取り組んだ。

その共通の合言葉は、「精神病院の縮小」と「入院者の地域化」である。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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