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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(60)
2009年12月21日 13:50 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年12月21日】その五。

「イスラム共同体」を実感するには、こんな駆け足みたいな短かい旅では、とても無理だと知った。「これこそそれだ!」と思う場面にぶつからなかった。

金曜の集団礼拝の場にでも立ち会えたら、イスラムの、神を通した団結力の一端をもかいま見ることができたかもしれない。しかし異教徒は絶対そこへ入ることができないから、これは無理な話。キリスト教の日曜礼拝ミサをヨーロッパ至る所で見て来たが、イスラムの集団礼拝はそれとまったく違う雰囲気ではないか。

「アッラーのもとイスラムはみな兄弟」、そんな空気がモスク全体にピーンと漂っているに違いない。熱気もきっとある。キリスト教会のミサで、そういうものをあまり感じたことはない。

気付いたのは、イランでは、子供が働かされている姿をほとんど見かけなかったことだ。2-3の場所でガムを売る少年を何人か見たが、なにがなんでも売るという必死の姿でもなかった。小遣いかせぎくらいの雰囲気だった。結構みんなが買ってやっていた。

同じイスラム圏でも、トルコあたりでは、子供たちが靴磨きしたり、お茶運びをやったり、品物運びで道路を走ったりする姿を多く見かけた。薄暗い土間で研磨の労働をしている子供や、一方で物乞いの子供も数多くいた。トルコだけでなく、イスラムでないベトナム、タイ、インド、それらの国も同じだった。イランにはその姿がない。

推量するに、これはイスラム主義を政治に掲げる政治姿勢、ならびに、この国の人々の信仰の結果ではないか。アッラーの教えどおり、弱者を苦しめない、助けるという姿勢だ。

イランは、経済的にはいま苦しい状況にある。インフレはいまだ進行中、今年も20%の物価上昇の見込みとか。失業率も15%と高い。当然、生活貧窮者の数も多いだろう。それでも、物乞いの人は見かけないし、子供たちが惨めな状況に置かれている姿を見ない。何故だ? 個々の人は勿論、国家レベルでの「ザカート(喜捨)」の思想、貧者や弱者を援けるイスラムの教えがここに表れているのではないかと僕は想像した。

もしそうなら、ここに、大きな「イスラム共同体」の姿を見たことになる。いずれにせよ、アメリカの経済制裁にも屈せず、貧しくとも凛として頑張っているイランの姿を今度の旅で見たような気がする。

イスラム民主主義とは、一体、何だろう? イスラムでは主権は神にある。人に主権はない。アッラーのもと人々は平等、そういう民主主義だ。これは、フランス革命以降の西欧型主権在民とは基本的に違うものだろう。それを、アメリカのお偉い人が、我が国の力でイスラムを?民主主義?の国に変えると勝手なことを言っている。そうすることが彼らを幸わせにするんだと言う。バカもいい加減にしろではないのか?

とどのつまりは、そのお人がイスラムを一段と低い宗教と見ているからだ。あの人の口調を見ればそれがわかる。アメリカの兵隊がコーランを便所に投げ入れたという話を聞けばわかる。キリスト原理主義者たちは、「我れのみ尊とし」なのだ。歴史を見ればそれがわかる。

俺はイランに少々肩の入れ過ぎかな?

その六。

ペルシヤ古代、中世、近世の遺物を見て、この国の栄枯盛衰を目のあたりにした旅であった。アレキサンドロスの遠征。アラブの侵入。チムールの支配。西欧やロシアの圧迫。サーサーン朝、アッバース朝、サファビー朝、いったい幾つの王朝が起こり、かつ滅んでいったろうか。歴史書を紐解くまでもなく、その興亡の歴史が各地に残っていた。ここでは、「時の移ろい」を思った。とりわけ、あの壮麗なペルセポリスが廃趾となっている姿を見て。諸行無常の響きを聞いた。

そしてまた、この興亡の歴史を乗り越えまた乗り越えしてきた民族が、ヤワな筈がないと思った。イラン人の逞しさや誇り高さにふっと触れた、そんな瞬間がこの旅で何回もあったような気がする。

今でこそ、自称先進国はイランを、いやイスラム世界を後進の国扱いだが、イスラムの民、12億人のこの人たちをばかにしてはいけない。

「歴史の軽い国ではないぞ」。この国を旅して、ますますそう思った。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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