PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(59)
2009年12月20日 15:02 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年12月20日】この紀行も終わりとなる。旅の日々の出来事をだらだらと書き連ねてきたが、今夜は最後だから、ひとつ、この旅の総まとめといくか。
その一。
イランのモスクの「青」は、人によって好みもあろうが、「感歎措ク能ワズ」とまではいかない。ペルシアン・ブルーと言うのだろうか、色が少々淡く、女性的だ。サマルカンドで見たレギスタン広場のそれや、夜のチムール廟のそれの、あの力強い男性的な「青」の方が僕は好きだ。
誤解をしてはいけない。イランのそれが駄目だと言っているのではない。見事は見事、おそらく誰もが感嘆する美しい色なのだ。これはまったくの個人的な好みの問題。こっちが勝手に、モスクは力強い青の方が好き、それも真っ青の空の下で、と言っているだけのことだ。色のことばかり言っているが、このモスクの造形、特にその大きさはすごい。ドームの高さが55メートルだ。その大きさに圧倒される人は多いだろう。実を言えば僕もその一人だった。
ペルシヤ文化の名誉にかけてつけ加えたいのは、シーラーズのモスク・ヴァキールのピンク、これは大変に美しいものだった。あれは優美の極みだった。これほど優美な色は滅多にお目にかかれるものではない。とても気に入った。気に入った証拠に、二度も三度もそこへ足を運んだ。
総じて言えば、ペルシヤ芸術は繊細優美、細にして優雅の極み、その一言に盡きる。
その二。
イランに来て、「オオッ」と叫ぶような星空や夕焼けをついぞ見なかった。これはやっぱり、ラオス、ミャンマー、それにウズベキスタンだった。どうしてだろう? 季節かな。僕は星空や夕焼けが好きだから、ちょっと物足りない。
その三。
イランの人は、みんな、日本びいきだ。
町を歩いていると、至るところで声をかけられた。百人が百人とも口を揃えて、「日本はグッド」と言う。みんながみんな日本人と接触したことがあるわけないのに、何故「日本はグッド」と言うんだ? 日本がアメリカや西欧と肩を並べている国と思っているからだろうか。それとも、テレビやなんかで日本を見て、緑豊かで美しい国と思ってのことなのか。それでグッド? なかには、「トユータ、ナンバーワン!」と日本車をべたぼめの奴もいた。「ニッサン、ホンダ、マツーダ、グッド!」。日本人が讃められているのか、日本の車が讃められているのか、よく分からないこともあった。
タクシーの運転手には、「グッド」の中味を、「日本人は穏やかで親切」と具体的に言う人も多かった。しかし、そんなことを言われると、とっさに僕は、韓国や台湾あたりのホテルのロビーで、ボーイに向かってやたら威張り散らしている日本人の顔を思い浮かべる。「いや、日本人はネ、よく知らない外国人の前ではおとなしくなっちゃうんだよ」、そうも言ってやりたくなる。日本人がどの人たちにも礼儀正しく、優しく、真に平和を愛する民族として認知され、それで「グッド」と言われるのなら本当に嬉しいのだが。
その四。
この旅で出会った三人の日本人は、大変に印象深かった。僕はイランを思い出すたびにこの三人のことを思い出すだろう。人にはそれぞれにその人なりの営みがある。その営みのなかで、一所懸命、自分を見つけなければと思って懸命の努力している。決していい加減ではない。存外、人間って捨てたものではないな、この三人を見てそう思った。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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