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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(55)
2009年12月16日 14:28 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年12月16日】ところで、その博物館だ。大変に膨大なコレクションで、いちいち書いていたらキリがない。印象に残ったものだけを書く。

石器時代はさておく。

土器が紀元前5000-6000年頃から始まる。風呂おけのような大きな土器もあって、素朴な幾何学紋様が描かれている。推定するにこれはワインを作るために葡萄を入れて潰した器ではないか。汚れを知らぬ清純な乙女らがこの壺に入って足で葡萄を踏んだだろう。

紀元前1250年とあった大きな牛の焼き物は、3000年以上も前のものとは思えぬ超写実で、首の皺(しわ)まで細かく表現されていた。概してこの頃の動物の飾りや置物は、ユーモラスなものが多い。現代抽象彫刻さながらの造形もある。

土器の中で面白かったのは5つの壷がつながって焼かれたものだ。水さしみたいな器までくっついている。これは、死者の体に塗る五種類のオイルの容器だったとか。死者を葬る古代の儀式まで偲ばせられた。

ここでの圧巻はやっぱりペルセポリスのものだ。一番気に入ったのは、百柱の間の牡牛の柱像。支柱そのものも凝ったものだが、その上に置かれた二頭の牡牛が素晴らしい。顔に気品がある。黒大理石で作られているから、どっしりしていて存在感がある。造形美としてはこれがナンバーワン。しばし見惚れた。これは今の時代に造られたとしても「特選」ものだろう。

ナンバーツーは、謁見の間の王のレリーフだ。椅子に坐った王の威厳と、前に立つ使者の御機嫌伺の風情が巧みに表現されている。2500年前だ。みごとなもんだ。

謁見の間の主階段が、そのまま運ばれて展示されていた。その側壁の家臣団のレリーフは立体的でとてもよいものだ。その横に、ペルセポリスでスケッチした人面有翼獣神像の頭部が置かれていた。イスラム教徒が削りとってしまったスケッチの顔にその頭部を当てはめてみた。きっちりはまった。腫れぼったいまぶたをしている。瞑想にふけっているように見える。静かな顔だ。僕が想像していたのは、もっときつい表情の顔だった。

犬の彫刻もあった。雌ライオンのような顔で体もえらくでかい。これはどう見たって愛玩犬ではない。でも首輪がついている。してみると飼い犬だ。王の力を誇示するために、こんな犬が飼われていたのかなァ?

紀元前1800年の、楔形文字の碑柱も興味深かった。フランス人がスサで見付けたそうだが、これは12世紀にイラン王がバルカンからパクってきたものでハンムラビ法典も左上方に刻まれている。そう説明文にあった。でもオッと思ったのは碑文の内容よりも見た目だ。なにしろ、太い碑柱に細かな楔形文字がぎっちりなのだ。それが芸術作品の絵のように美しく見えた。現代アートのようだ。ウォーホルがこれを見たら何と言うだろう。コーラの缶を並べたのより、俺はこっちの方がいいナ。

展示品も紀元後3世紀以降となると、婦人像など、ギリシャ彫刻そのものになる。タイル画もポンペイに残るものをそのまま写し取ったみたいにそっくりだった。この辺になるとつまらん。

ミイラの首も置かれていた。髪も髭もぼうぼうで、胴体のない首だけのミイラは一寸不気味だ。展示の位置からして、紀元後4-5世紀の人だ。傍に、皮の長靴があり、その靴の中に大腿骨や脛の骨が入っていた。この長靴から推定するに、このミイラは多分庶民だろう。それにしても、数ある美術品のなかに、このミイラだけが唐突にぽつんとおかれていて異質だ。皮肉なことに、こいつ、古代から現代の僕らを見て歯を出して笑っている。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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