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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(52)
2009年12月13日 07:57 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年12月13日】ところで、ここは首都で大都会のテヘランだからだろう。通りすぎる女性の姿を見ていると、すそ長でなく肩や腰までの短かいやつをかぶっている女性が結構いる。特に若い女性に多い。いくら「隠す美」と言っても、若けりゃやっぱり出して見せたいんだろうな。それはそれで結構。アッラーもしからないでしょう。

子供は、白や淡い色のスカーフみたいのをかぶっている。この姿はとてもかわいらしく見えた。シーラーズの親子連れの娘をふっと思い出した。

そうだ。もうひとつ思い出した。イランでは、顔の輪郭を包むこのチャドルを「真珠の貝殻」と言っている。うまい表現だと思ったが、その言葉を思い出して御婦人たちを見たら、チャドルは貝殻で彼女らの顔がみんな真珠に見えてきたから不思議だ。

と、まあこんな太平楽なことを考えていたら、バックパッカーらしい身なりの、背の高い白人に話しかけられた。

ジャパニーズ日本人? と聞き、俺たちはアメリカ、ニューヨークからだと言って、同じベンチに腰かけた。20歳台前半と見えたが、二人とも議論好きで旅行談義はそっちのけ、丁々はっしの大議論となった。チャドル論なら良かったのに政治の話だ。

一方がいきなりこう切り出した。

「いま、イランは核開発をやろうとしている。これは危険だね。そう思わないか?」

なにぬかす。ここは一丁、イラン擁護やるぞ。

こういう聞いたふうなことを言われると、すぐ反発したくなる。悪い癖!

「イランは、ただ、原子力発電をやりたいと言ってるだけでしょっ。核兵器開発ではないとはっきり言明もしている。それを信用するかしないかだ。発電所を作る権利はイランにもある。ブッシュは、てんからイランを『悪の枢軸』なんだから。結局、アメリカはイランが強い力を持つのが怖いんだよ。意のままにならないから怖い。なによりも、イスラム諸国がイラン中心に団結するのが怖い。だから核を持たせまいとするのさ。インド、パキスタンには黙認、親米だからだよ」

「だって、核戦争になったら世界の破滅だよっ。イランに核持たせたら危ない。他の国もまねする。やっぱりアメリカが阻止しなくちゃあ」

ちぇっ、またアメリカの警察国家論かよ。正義面しやがって。その理屈だってベトナムのドミノ理論と同じだよ、懲りてねえんだなァ、アメリカは。国連まで無視だ。

「結局、アメリカは力で中近東の石油を押さえようとしているだけでしょ。後押ししていたシャー国王が倒されて、イラクの石油利権が望めなくなった。だから、イラン・イラク戦争でもイラクの助太刀してホメイニをつぶそうとした。なのにフセインが反米色になったら今度は彼が目の敵、あらぬ難くせつけて戦争仕掛け、イラクをめちゃくちゃにしちまった。民主主義にして幸せにしてやる?ごまかさないでよ。本音は石油を支配したいだけ。言っちゃァ悪いが、アメリカは自分勝手だと思うな」

二人は暫時口をつぐみ、それから一人が唐突にこんなことを言い出した。

「イスラムは何やらかすか分からないからなあ。イラクの自爆テロ、狂気の沙汰だよ。ぞっとするぜ」

これこそ、なにぬかすだ。こいつら、イラク人の悲しみを何も分かっちゃいない。

「あのですね、あれをテロと言わないで欲しいな。あれは、勝手に国土を踏みにじった奴への攻撃と、アメリカに言いなりの傀儡政権を倒すための攻撃ですよ。武器持たぬ側のやむに止まれぬ行為です。テロ攻撃と言わずに、ゲリラ攻撃と言って下さい」

「それにしても野蛮だよ、あれは」

「俺はモスレムじゃないからジハード聖戦の意味を云々はしないけど、自爆してでもという気持ちは分かるぜ。日本だって神風攻撃やったからね。抵抗手段なくて、おまけに劣化ウラン弾なんかを愛する国土にパカスカぶち込まれたら、俺だって自爆攻撃をやる!」

二人はあきれ顔。

おいおいお見損なっちゃ困る。俺はニッポン・サムライだぜ。生き恥は晒(さら)さねえ。さらに言ってやった。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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