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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(51)
2009年12月12日 11:48 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年12月12日】にぎやかな繁華街のアスル広場へ行こうと思ったが、あいにくタクシーがなかなか通らない。どの車がタクシーなのかよく分からなかったから、ずっと手を挙げていたら、スッと一台の車が寄ってきて停った。見ると、学生さんで助手席には小学生くらいの男の子が乗っていた。

「どちらへ行かれるのですか?」。アスル広場と答えたら、「お乗りなさい」と言う。頭にフロント氏の「注意書」がチラと浮かんだが、僕の目には良い人に思えたから、有り難く乗り込んだ。

「中国のお方ですか?」
「いえ、私は日本人です」

そう言えば、イランに来て何人かに「中国人か?」と聞かれている。「私は中国人にみえるのですか?」と尋ね返したら、青年は笑って、「いえ、貴方のようなおひげの方を中国の絵でよく見かけますので・・・・」と、言った。

イランへ来て以来、髭は伸び放題、まったくいじっていない。顎(あご)ヒゲは無論のこと頬ヒゲも大分伸びている。だからきっと、杖つく中国仙人のような顔になっているんだな。

すぐ目的地へ着いたが、彼はさし出したお礼を受けとろうとしない。乗せてくれたのは、「旅人を助けよ」というイスラムの教えに彼が従ったまでなのだろう。カッチケネエ。大急ぎでリュックから「和風ハンカチ」を取り出して、弟の少年に渡した。

「すみません。そんなつもりだったのでは・・・・」と彼は言い、「Have a nice time」と言って走り去った。

アスル広場はテヘラン一の繁華街とあって、さすが人で賑わっている。ショッピングアーケードもある。服屋、靴屋、カバン屋、宝石屋、眼鏡屋、ずらりと商店が軒を連ねる。黒いチャドルの御婦人が熱心に品選びをしている。都会だけあり、チャドルでなく肩までの黒いショールで、ブラウス姿の若い女性も結構見かけた。

しかし、こんな賑やかな所なのにレストランが見当たらない。随分探したのだがあきらめて、広場のベンチに30分くらい座って道行く人々の群れを眺めた。やっぱり僕の目はチャドルに行く。またチャドル文化論が頭の中で始まってしまった。

女性がその姿をあら露わにしないという習慣は、なにもイスラムに限ったことではない。ゾロアスターの時代もそうだったと聞いた。イラン空港に着いた当夜、「これは日本の被ぎだな」と言ったが、考えてみれば日本だって室町時代までは、上流の女性は被をかぶって顔をかくしていた。源氏絵巻では女性はきちょう几帳の蔭にいつもかくれている。末摘花なんか、光源氏は幾夜も褥(しとね)を共にしながら彼女の顔すら見られない。雪の明かりで初めて彼女の顔を見て、その鼻が長く垂れていて先っちょが赤いのにアッとひっくり返ったくらいだ。

この、露わにしないところが奥ゆかしいんだ。僕の目には、イランのチャドル姿の御婦人が、ますます慎しみ深く益々優雅に見えるようになってきている。女性の方もチャドルで自分を引き立たせようと思っているんじゃないかな。誇りを持って着ているように見える。颯爽と歩いている。チャドルのことを「イスラムが女性を差別している証拠だ」なんて言う奴は、町を歩く女性の姿を見るがいい。裸になればいいってもんじゃねえだろ。

そうだ。シャー国王の時代、1941年だったか、チャドル着用禁止令を出した。それが近代化だとシャー国王が言った。その時、禁止令に猛烈な反対をしたのは、貧困層の女性たちだったそうな。反対の理由は、チャドルを取ったら貧富の差が歴然となるからだった。チャドルはお金の無い人の味方をする。おまけに、砂嵐や猛烈な日差しから身を守る。便利性だってチャドルの効用のひとつさ。

チャドルは男尊女卑、女性差別、チャドル反対論者の言い分はよく分かっているつもり。デスカラ、私は美醜の観点からだけで、ものを言ってイルノデス。コーランの教えには逆らえません。逆らいも致しません。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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