PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(49)
2009年12月10日 09:02 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年12月10日】ついでのことに、イランのレストランには特別区画がある。女性、ないしは女性同伴の人がそこに入る。だから僕の座る席のまわりはみんな無粋武骨な男ばかりだ。イランでは、食物も、それを食べるテーブルも、色香が無い。食物談議はやめよう。
「男は食物についてつべこべ口出ししてはならぬ」。幼い頃(ころ)から僕は母親に厳しくそうしつけられた。男ハ天下国家ヲ論ズルノダ!
明日は、午後四時発の飛行機で、出発地のテヘランへ戻る。明日の午前は何をしよう? ここの観光の目玉の一つに「シャー・チェラーク廟」というのがあるらしいが、廟やモスクはもういい。「ピンクモスク」を丹念に見て満足したから、これでもう充分だ。これから、ハルシオン(睡眠導入剤)でも飲んで、明日はドカンと朝寝坊するとしようか。
そうだ。書き落とした。ハルシオンで思い出した。
ナグシェ・ロスタムで絵を描いている時、女学生らしい女の子が数人寄ってきて、絵をのぞきこんで話しかけてきた。煙草をのみながらお相手をしていたら、その中のオキャンらしいのが、
「貴方はどうして煙草を吸うの!」
と、言い出した。好きだからだよ、と言ったら、だって煙草は体に悪いでしょ!と言う。
「でもそれは私の勝手でしょ」
イッツ・マイ・ビジネス、と僕は答えた。その女の子は口をとがらせて、
「アッラーは、人の意識を変えるものを使ってはいけないと仰っしゃっているわよ」
「おあいにくさま。煙草で意識が変わるかどうか、君も試してみたら?」
煙草を差し出したら、「オウ、ノウ!」と大仰に顔をしかめてその子は逃げていった。俺を悪魔の使いと思ったに違いねえ。あの子には、頼まれたって「和風ハンカチ」はあげられない。ハルシオンを飲んだから、もうろうと「意識が変わって」きた。アッラーにしかられるかな?【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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