PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(47)
2009年12月08日 09:00 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年12月8日】僕は、十分に満足して、帰りの階段を下りた。振り返って、もう一度、ペルセポリスの城壁を見上げた。2500年の時の移ろいがそこにあった。
インドの古典、バカヴァット・ギーターの第11章に、「我は神なり。世界を滅ぼすものなり」という言葉がある。ここで言う「神」とは「時間」という意味でもある。時間は滅ぼすのだ。
この言葉は、神クリシュナが英雄アルジェナに向かって告げた。
親族を討つ出陣前夜だ。アルジェナは、肉親相討つ戦に赴くことを思い悩み、ためらっている。その時、戦車の御者に身を変えていたクリシュナが、神の正体を現して彼に言うのだ。
『お前が彼らを滅ぼさなくても、神であり、時間である私がやがて彼らを滅ぼすのだ。・・・・・・・・。ためらうな、アルジェナよ。行って戦え』
たしかに、時間はあらゆるものを滅ぼす。老い。死。どんなものにでもやがてくる滅亡。今日の建築物も明日には崩れる。「時の移ろい」について透徹した目を持つことだ。
切符売り場の傍の売店で、数枚の絵葉書とわが友、長野君に送るペルセポリスの写真本を求めた。今日見た感動の一端を友にも伝えたい。そのあと、6キロほど離れた「ナグシエ・ロスタム」、アケネメス朝の四人の王の墓を見に行った。
巨大な岸壁の中腹にギリシャ十字の形で墓がくりぬかれている。ペルセポリスの崖にあったくりぬきと同じ形だ。首が痛くなるほど高い所にある。王の墓をスケッチした。
墓の横下に、岸壁を削った巨大なレリーフがある。「騎馬戦勝図」というやつだ。馬に乗ったペルシヤ王の前に、捕虜となった東ローマ帝国皇帝が膝まずいている。面白い図柄だ。スケッチの右下にそれを描き入れた。
このスケッチは、全体が見渡せる小高い丘に登って描いた。色はその場で乗せなかった。乾燥しているうえ気温が高いから、絵具をパレットに溶いてもアッという間に乾いてしまうのだ。日射病になりそう。なにしろ、炎天下にもう4時間以上だ。冷たい水のシャワーを浴びたくなって、ここは早々に切りあげてホテルへ戻った。
ここまで書いたら、時計はもう午後の7時を回っている。ここでいったん筆を置く。夕飯がてらまたバザールへ行くつもり。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
PJニュースは一般市民からパブリック・ジャーナリスト(PJ:市民記者)を募り、市民主体型のジャーナリズムを目指すパブリック・メディアです。身近な話題から政治論議までニュースやオピニオンを幅広く提供しています。海軍兵学校78期
PJ募集中!みなさんもPJに登録して身の丈にあったニュースや多くの人に伝えたいオピニオンをパブリックに伝えてみませんか。

