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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(42)
2009年12月03日 09:32 JST


(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年12月3日】そのあと、彼から学生運動についての質問が始まった。彼、レッドパージ闘争も知らない。60年安保も名前だけ。先輩面して昔話を始めた。

レッドパージ闘争というのは、「コミュニスト教師を大学から追放せよ」という、アメリカ連合国軍総司令部(GHQ)指令に抵抗した学生の闘いだった。「学問の自由を守れ!」と叫んで、全国の大学が一斉にストライキに立ち上った。

東大も? もちろんだよ。東大が全国の大学の先頭に立った。学内は騒然、とうとう駒場構内に警官隊が突入する事態にまで発展した。警官の学内立ち入りは戦後初めてのことだ。みんな激怒した。スト反対の右翼学生までが、それがきっかけで、ストの戦列に加わってきた。

「俺? 俺は左翼さ。その頃、反戦学生同盟A・G って組織に入っててネ、外語大をストに入らせるためのオルグをやってた」
「すごいですネ」
「そうそう。あの時は山登りが役に立ったョ」
「え?」

駒場の裏門を山岳部が守った。ザイルや縄ばしごを使ってね。あらゆる山道具を動員したよ。駒場の時計台の屋上に旗をたてて、何人かの学生が立てこもったんだ。大学側は、それ以上学生を入れまい、上の奴らは兵糧攻めだ、と入り口を封鎖した。

「それでネ、闘争委員会の奴らが山岳部へ頼みに来たんだ。時計台の壁を登って上に食料を届けてくれないかって」
「すげえ! で、登りましたか?」
「俺がネ、ザイルとハーケン持って、さてどこを登ろうかって見上げてたら、大学側がふっとんで来た。危ない、やめて下さいって」
「で、どうしました?」
「やめねえッって俺も怒鳴った。そしたらネ、奴ら、慌てて入り口の錠を外して、『どうぞ階段から』だったよ」

こんなバカな回顧談をしてやったら、今度は彼が60年安保の話もして下さいと言った。

「あの時、国会の中へ全学連が一斉に突入したこと知ってる?」
「ええ、聞きました。樺美智子さんっていう学生が死んだんでしょう?」
「うん。あの時も山登りが役に立った」
「えーっ、またですかァ!」
「国会突入の先陣を東大隊が務めたんだ。そのまた先陣が俺、国会正面の門に最先にとびつき、一番乗りで飛び越した。なんてったって、登ることだけは得意だからなァ」

やられませんでしたか? やられたさ。機動隊のこん棒でけが人続出、頭から血を出す奴、体中あざだらけの奴、何十人と負傷者が出た。

「先輩は大丈夫だったんですか?」
「その時、俺は医学部の学生だったからネ。ザックからすぐ白衣を取り出してけが人の手当やり出したから、奴らも俺だけはなぐらなかったナ」

芸は身を助けるですネ。バカ言え、医者のママごとなんかつまんねぇ。取っ組み合いの方がよっぽどいいや。

と、まあ、こんな話をした。目を丸くして聞いていた彼は、次いで、

「今の東大は、政治運動やる人はほとんど居ません。たまに、ほんの何人か鉄カブトをかぶっているのを見ますが・・・」と言った。

「今はそうだよね。でもネ、君、鉄カブトとは言わないんだよ。ヘルメットだよ」

それから、昔の東大は鷹揚(おうよう)だった、面白い教授も居たという話になった。今度はこっちが彼の話に大笑いした。

駒場時代のドイツ語試験のこと。教授が「今度の試験は持ち込みなんでも自由」と言った。そうしたら、一人がドイツ人を一人「持ち込み」して受験した。教授は目を白黒させたが、「なんでも自由」の発言の手前、何にも言えなかったと。これは面白い。愉快な話だ。

すっかり話しこんで、店が看板になってしまった。彼は自分の勘定を自分で払おうとする。「いいよ、俺が払う」。「いえ、僕の分は自分で・・・・」。「バカ言っちゃいけないよ、俺は君の先輩だぜ」。「それではお言葉に甘えます」

彼は今夜の夜行便でイスファハーンへたつ。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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