PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(30)
2009年11月21日 07:00 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年11月21日】ホテルでは、ホールの縁台の上にあぐらをかいて、野菜たっぷりのヤズドスープ、マトン羊のカバブ、スモールピザに野菜サラダ、それにティー紅茶。食べ終って、勿論、水煙草。今日はペパーミントの香料で。
フランス人の団体が、ディナー夕食に来て、帰っていった。朽ちかけた回りの部屋などを仔細(しさい)ありげな顔で見上げていた。やっぱり、歴史的ホテルは人気なんだ。
この食堂ホールは、典型的なイスラム式中庭だ。池のまわりに、緑の木がたくさん植えられている。水と緑は、砂漠の民、アラビアの憧れそのもの、そこに座ると心休まるのだろう。こうした中庭構造は中近東の何処にでも見られる。モハメット以来、1400百年の伝統様式だ。モハメッドは、生まれ故郷のアリヤで、棗(なつめ)椰子(やし)の柱を一列に立て、棗の網代編んで屋根を組み、その上を玉葱(たまねぎ)の緑の葉で蔽(おお)って土をかぶせたという話だ。伝統を尊ぶ人の家の中庭は、今でもそれを踏襲するが、ここのは屋根がテント、そのかわり風が入る。至って快適なホールだ。
部屋へ戻って、シャワーを浴び、小さなベットを机代わりにしてここまで書いた。明日は、この町の郊外、ゾロアスターの鳥葬場をみにいく。
そうだ。この町のゾロアスターの由来がまだだった。
ゾロアスター教、日本の呼び名は、拝火教。光の善の神アフラ・マズダを唯一神とし火を崇拝する。啓示宗教としては人類初のものだ。紀元前15-16世紀頃、アフガニスタン北部あたりに居たザラシュストラによって始められた。始祖の名、ザラシュストラがゾロアスターという呼び名のもと元になった。ニーチェの「ツァラツーストラ」もこの名からきている。
イランでは、紀元前6世紀のアケメネス朝と紀元後3世紀のササーン朝が、この宗教を国家の宗教と定めた。大いに繁栄したが、紀元後7世紀にアラブがイランに侵入して、ササーン朝を滅ぼし、イスラム教がこの国に持ち込まれた。その後ゾロアスター教は衰退していく。代わってイラン全土がイスラムとなった。
ゾロアスター信者は、今、ヤズドを中心に2万5000人いる。イスラム教徒に圧迫されてイラン各地からここに集まってきて住みついた人たちだ。インド、パキスタンには、信者8万5000人だそうだ。これら信者の聖都がヤズドで、みんなここへ巡礼に来る。この町のゾロアスター寺院には、千年燃え続けている「聖なる火」があるそうだ。
宗教話が出たので、イランの宗教について書くと、イスラム・シーア派がこの国の主流、スンニ派も少数だが居る。他に、キリスト教でアルメニア教会派とアッシリア教会派、それにユダヤ教とゾロアスター教だ。いずれにしてもイランと言えばシーア派だ。
イラン、シーア派ときて、頭にすぐ浮かぶのは「アシュラの日」だ。この日、彼らは胸を叩(たた)き、或る者は鎖でわが身を打ちつけて血だらけになりながら行進する。涙を流し、叫び声をあげて歩く。イスラム暦の1月10日だ。この日、シーア派三代目のイマーム、ホセインが一族とともにウマイヤ朝によって虐殺された。それを偲んで、この国の人たちは殉教の思いを新たにする。子供には白装束を着せる。イスラムの殉教志向の強さをまざまざと目のあたりにする日だ。
ことのついでに、ヤズドについてもうひとつ。マルコポーロもこの町を訪れている。彼はヤズドを「学識豊かで優秀な人々の住む美しい町」と讃(たた)えたそうな。
大分、夜が更けた。もう眠ろう。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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