PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(27)
2009年11月18日 07:29 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年11月18日】車は茶褐色の丘陵沙漠地帯を走る。この前と同じだ。どこまで行っても同じ風景だ。
この親父、かなりのスピードで突っ走る。次々と石油タンクローリーを追い抜いて行く。窓から吹きこむ風がビューンと唸りを立てて耳を切る。大丈夫かいナ、もう少しゆっくり走れば? と言いたくなる。
「アイ・アム・ア・ティーチャー(私は教師です)」といきなり彼が言った。
「え、あなた、先生なの?」
「そうです。小学校の教師です。タクシーの運転手と両方やってます」
乗っている車は黄色いキャブだから、大手タクシー会社のものだ。してみると彼は正真正銘の運転手だ。どっちがほんと? 聞けば、月曜から金曜までは小学校の先生、土曜と日曜になるとタクシーの運転手になるんだと。
「フーン」と、僕はあらためて親父さんの顔を見る。温厚篤実そのものだ。先生かァ。道理で・・・。
彼の名は、チャンタルル・アフシャニメッド? イランの人の名は覚えにくい。妻と3歳の娘と8歳の息子がいる。4人暮らしだ。小学校教師の給与は月額200ドルだそうだ。「アイ・ラブ・マイ・ジョブ」と彼はつけ加えた。
先生の給料が2万円ちょいかァ。ここでなら、デイケアのメンバーさんも年金で楽々暮らせるなァ。日本はますますせち辛くなっているから、日本を見限ってみんなでイランへ集団移住しちまえばいいかな? いや、ラオスでもいいな。待てよ、ウズベキスタンはどうだ? 沙漠を走りながら、こんな馬鹿なことを空想している。
途中のチャイハナで昼食をとった。先生運ちゃん氏、正面で向き合ってあらためてじっくりその顔を眺めると、彼はやはり、実直で素朴、村夫子然の人だ。
ちょうど、店でアメリカンポピュラーの音楽をやっていたので、それをはずみに危ない質問を切り出してみた。
「アメリカをどう思う?」
「アメリカ・イズ・ノー・グッド」
「ブッシュは?」
「ブッシュ・イズ・ノーグッド」
「どうしてノー・グッドですか?」
「イラクは何もしていないのに、ブッシュは戦争をした。イラクの人たちはアン・ハッピィになった。かわいそうです」
たどたどしい答えながら、彼はそう言って悲しそうな顔をした。思ったことを英語で充分に言えないから、もどかしい思いもしているだろう。気の毒になったから、最後の質問で終わりにした。
「アメリカのイラン批判をどう思っていますか?」
「アメリカ・イズ・ワンサイド(一方的)。アメリカはセルフィッシュです。オンリィ・オイルね。アメリカ・イズ・ノーグッド」
温厚な彼の顔が、最後の答えの時はキッとなった。
再び、沙漠丘陵地帯を走る。
彼は煙草が好きだ。文字通りチェーン・スモーカー、僕の進呈したピースを、運転しながら立て続けにパカパカ吸い、見る見る一箱のんでしまった。また一箱進呈。つられて僕もパカパカだ。
彼の悪い所は、運転席の窓をいつも全開にしていることだ。おまけにぶっとばすから、後部座席へビュービュー風が吹きつけてくる。その風が、日射しは強いのに結構冷たい。鼻水が出て、クシャミがやたら出る。風邪をひきそう!僕は吹きこむ風を避けて、後部座席で豹(ひょう)のように丸くなっている。
午前10時にイスファハーンを出て、午後3時きっかりにヤズドへ着いた。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
PJニュースは一般市民からパブリック・ジャーナリスト(PJ:市民記者)を募り、市民主体型のジャーナリズムを目指すパブリック・メディアです。身近な話題から政治論議までニュースやオピニオンを幅広く提供しています。海軍兵学校78期
PJ募集中!みなさんもPJに登録して身の丈にあったニュースや多くの人に伝えたいオピニオンをパブリックに伝えてみませんか。

