PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(21)
2009年11月12日 07:00 JST
ザーヤンデ川のスィー・オセ橋。(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年11月12日】イラン到着の時は、空港に居た女性を見て「なんだこの人たち、どいつもこいつも黒ずくめ、カラスじゃあるめえし」と思ったりして、黒衣(チャドル)評価はむしろマイナスだった。もちろん、コーランの教えを踏まえたうえで、これは単なる僕の美醜イメージだけでの評価だ。
ところがだ。あれからまだ5-6日しかたっていないというのに、このチャドル観が微妙に変化を見せ始めている。エマーム広場でチラッと「黒も悪くない」と思った時からだ。それで今夜も、しげしげとチャドル姿を観察した。
チャドルってのは、一枚の布を簡単に縫い閉じただけのものらしい。ここの女性は、それを仕立てのよいマントのように、格好よく巧みに着こなしている。ずり落ちないように顎(あご)で布を押さえたり、キュッと唇のはしで布をかんでいたりしている姿なんぞ、なかなか粋なものだ。歌舞伎女形が手ぬぐいをあね姉さんかぶりしているみたいに格好よく見せる人もいる。
チャドルの内側は外見からはうかがい知れない。やせた人なのかふとった人なのか? おデブさんだったらこれは嬉しいだろう。下に着ている服装もどんなかわからない。襤褸(ぼろ)衣だって恥ずかしくない。若い人は大抵下はジーンズだな。案外、本体はノーブラでTシャツ、短パンだったりして。
失礼ながら、道行く人のチャドルを剥(は)ぎとって、中身を推理する遊びに熱中した。アラーの神に叱(しか)られるぞォ。
土手に座っているチャドルも観察する。座る姿によっては腰の線がはっきり出る。おやッと思うほどそれが魅力的だったりする。それで分かった。チャドルだから俺は見るんだ。日本みたいにむき出しだったら見やしない。隠すからこそ顕れる。隠す美なのだ、チャドルは。これがチャドルを面白いと思わせた正体だ。
今日の俺のチャドル考察論はどうもげせわ下世話だな。後日はもうちょっと高級なことを考えたいと思って、僕は土堤(どて)の芝生から立ち去った。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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