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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(20)
2009年11月11日 07:09 JST


ザーヤンデ川のスィー・オセ橋。(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年11月11日】この橋の上は車が走らない。僕はアーチの縁に腰をかけ、両足を川に向かってぶら下げる。微風が足元を吹き抜けて心地よい。橋の下は、オープンテラスのチャイハナとなっていて、大勢の客が水煙草を吸いながらおしゃべりをしていた。

その中の若者の一団が、目ざとく僕を見つけて手を振った。手を振り返したら、彼らはそれぞれに手招きをし、自分たちの席を指さして、こっちへ来い、一緒に水煙草をやらないかというしぐさをする。手を横に振って遠慮していたら、とうとう一人がわざわざ橋の上まで誘いに駆け上って来た。ペルシヤ語で、水煙草はうまいよと言っているらしい。僕のことだ。即座に、オッケイと言って行きかけたら邪魔が入った。

二人の警官がやって来て、若者には、「元の席に戻れ!」、僕に対しては、「あんたは向こうだ」と言う。どうやら観光客をワル悪者から守るための親切心らしい。「余計なお世話でしょッ」、一瞬言いかけたが、その言葉を飲みこんだ。警官を怒らせるとまずい。一方、警官がこんな出しゃばりをするくらいに、この辺りは被害が多いということなのかもしれぬ。仕方ないか。警官に礼を言ってその場を離れた。

「君子危ウキニ近寄ラズ」か。でも、「虎穴ニ入ラズンバ」という言葉もあるがなァ。異国を旅する時は、この二つの案配が難しい。向こう見ずをやってなにかあっても困る。かと言って、構えてばかりいたら、旅はつまらん。どちらかと言えば、僕は「虎穴ニ入ル」ほうだ。「君子」のほうをとるくらいなら、自分の家で寝ころんで、お茶でも啜(すす)りながらテレビでも見てればいいさ。

夕暮れとなり、橋がライトアップされた。

土手の芝生に寝ころんで、刻々と空の色が変わるのを見た。土手には、老若男女、大勢の人が座っている。夕暮れのひととき一刻を楽しんでいるのだが、家族を除いて男女入り交じっての集団というのはほとんど見当らない。男は男同士で数人、女は女同士で数人といった案配で、さすが厳格なイスラム国だ。

カップルでいる男女はそこそこいる。手をつないで歩く二人連れも2-3組見かけた。人前で男女が手をつなぐ光景は、この国ではちょっと奇異だ。ハタミ大統領になって、イスラムの規律をかなり緩めたというが、これもそのあらわれだろう。数年前までは、女性という女性が顔全部をヴェールで蔽(おお)っていた。いまはチャドル(黒衣)こそ被っているが、みんな顔を出している。

それにしてもチャドル黒衣ってのは不思議だ。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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