PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(18)
2009年11月08日 07:00 JST
イラン・エマーム広場(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年11月8日】5月20日。金曜日。
目覚ましをかけなかったから、起きたのが朝の11時。風呂へ入って、またベットにもぐりこみ本を読む。空港で求め文庫本の「イスラムの世界地図」、少々雑だが、へぇと思う箇所もあって、読み終ったら午後1時になってしまった。
さあ、そろそろ腰を上げようか。今日もエマーム広場だ。
広場へ着いたら、昨日と打って変わった雰囲気だ。多勢の兵士が銃を持って、入る人をチェックしている。広場も奥へ進めないように柵が張られていた。僕が入ろうとしたら、即座に、「ノオ」と言われた。え、どうして? 「Why Not?(どうして)」 聞いても、英語が話せないのか、ノオと言うだけでとりつく島もない。
その時突如、ミナレット(読経塔)のスピーカーが、コーランの読誦(どくしょう)を始めた。それでやっと気がついた。今日は金曜日だった! 金曜日はイスラムの集団礼拝日で、異教徒はモスクの中へ決して入れない。ノオと言うはずだァ。あきらめて、バザールをひやかしに行ったが、ここも金曜日とあって、閑散としている。
そのうち、突然、ナン焼きおじいちゃんの顔が再び見たくなった。それで、昨日のチャイハナへ昼飯を食べに行った。
居た、居た。おじいちゃん、昨日と全く同じしぐさで、全く同じ仕事をしている。当たり前だが、すっかりうれしくなり、彼の仕事ぶりがよく見える席へ陣取った。羊のカバブを食べながら、観察する。昨日もそうだったが、おじいちゃんは決してお客の方をふり向かない。黙々と仕事だ。ちょっと首をかしげてやっている。小一時間以上もそこに座っていた。帰りがけ、おじいちゃんのところへ行って、「あなたはえらいねぇ」と言ってやりたかったがやめた。そっとしておいてやるほうがよい。
店を出て、ふと暮鳥の詩の一節が頭に浮かんだので、それを口の中で、ブツブツ呟きながら歩いた。
石工が石を割るやうに/左官が壁をぬるやうに/それでいい/手や足をうごかしなさい/しっかりと働きなさい/それが人間の美しさです
広場の角で立ち止まり案内書を見たら、右手にあるアリ・カプ宮殿なら金曜日でも正午過ぎれば入れるとあった。ここの上階には音楽堂がある。部屋の天井と壁面に瓶の形をした孔がたくさん開いていて、当時はそこにガラスや陶器の瓶を置いて音響効果を高めたとか。中世のステレオ装置だな。よほど見に行こうかと思ったが、やめにした。多分、そこに立ったら、ペルシヤ音楽が耳に聞こえる気もしようが、兵隊さんの姿をあまり見たくない気分だった。
きびすを返して、「ジャーメ・モスク」という所へタクシーで行った。案内書の写真から察するに、ここの回廊は素晴らしそうだ。ヒバの「ジュマ(金曜)モスク」と違って、ここのは木ではなく石造りだ。アーチが連続して470もあるというから、それが不思議な空間を形作っているに違いない。
しかし、ここも金曜日で入れなかった。
未練たらたら、周辺をうろついていたら、建物のすき間からなか内部の一部がのぞけて見えた。薄暗い奥に、複雑な石柱の重なりが見える。ごてごてした装飾は一切なく、時代がかった重厚な柱が奥へと連なっている。ゴルドバ・メスキータの繊細とも違う、一種、重い神秘的な雰囲気がある。「あのなかに座ってみたいな」、そう思ったが、入れないのではどうしようもない。
モスクのわきにもバザールがあった。ここのバザールはぐんと下町的で、庶民のにおいがした。魚や野菜や果物を売る青空バザールも横にあった。野菜や果物がキロ単位の値段で売られている。それが、驚くほど安い。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
PJニュースは一般市民からパブリック・ジャーナリスト(PJ:市民記者)を募り、市民主体型のジャーナリズムを目指すパブリック・メディアです。身近な話題から政治論議までニュースやオピニオンを幅広く提供しています。海軍兵学校78期
PJ募集中!みなさんもPJに登録して身の丈にあったニュースや多くの人に伝えたいオピニオンをパブリックに伝えてみませんか。

