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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(16)
2009年11月06日 11:13 JST


イラン・エマーム広場(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年11月6日】広場に再び戻り、正面のモスクの遠景をスケッチした。あのなか内部は、恐らく目を剥(む)くほど華麗なイスラム装飾が施されているはずだが、それを見るのは後日の楽しみとした。イスファハーンでは、あれこれと建造物を見て回るのをやめる。このモスク・エマームだけ一点に絞って、毎日、見に来ようと決めた。

あらためて、ドームを仔細(しさい)に見る。巨大なドームだ。淡いブルーをベース基調にしているが、唐草紋様が一面に描かれていて、この紋様だけは褐色に色づけされている。誠に見事なものだが、ブルーがウズベキスタンの真っ青と違って淡い。空色だ。ウズベクの青はその真っ青な空によく映えていた。イランは空が淡い空色だからドームもこの色かな? と思った。いずれにせよ、どちらの色も、これ以外の色は無いと思えるほど空とよく似合っている。このドームは、色が浅い分だけ女性的、勇渾というより優美だ。

夕方になったら、人がぞろぞろ出て来た。男も女も。画を描き上げてベンチにもたれ、通り過ぎる人々をぼんやり眺める。

女性は一人の例外なく黒いチャドル(黒衣)をかぶっている。長い裾(すそ)の下に見えるストッキングまでみんな黒だ。若い女性は靴だけは色のついた高いヒールを履いている。これが彼女らの外に見せる精一杯のおしゃれなのだろう。顔は薄化粧だ。紅も薄く塗っている。うれしいことに、僕と視線が合うと、女性でもニコッとほほ笑んでくれる。みんな、ゾクッとするくらいに黒い瞳がきれいで輝いている。

そんな女性を見ていて、こんな風に思い始めた。「黒ずくめも悪くないんだなァ」と。

黒い布で顔を包んでいるから、出る顔がぼけないでくっきりする。顔の個性が服の色でぼかされない。美人顔が一層映える。フワッとはおるチャドルで体の曲線は全く出ないが、時折、手首がちらっと見えたりすると、これがびっくりするほど白くて艶やかだ。黒だからなお白く見える。

黒の服ときて、日本の黒い着物を思い出した。芸者さんの着物のなかで、なにが一番美しいかと聞かれたら、僕は躊躇(ちゅうちょ)なく出の黒と答える。黒くらい粋な着物はない。黒の喪服はかの本阿弥光悦の考案だそうな。

黒もいいなァ。頭の中からイスラム共同体などという言葉はどこかへ吹っとんでしまって、道行く御婦人の品定めに余念がない。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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