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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(5)
2009年10月26日 07:00 JST


イラン・カーシャーン旧市街。(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年10月26日】今日中にイスファハーンまで行くのは少々遠いから、途中のカーシャーンまで行くことにした。カーシャーンは古い田舎町だ。そこでのんびりする。そうだ、そこで2泊がいいや。だが、カーシャーン行きのバスに乗り込むまでがひと騒ぎだった。

「地球の歩き方」には、「テヘランには4カ所のバスターミナルがある。カーシャーン行きは、ジャノブとヘイハギー」とある。そこで、ヘイハギーへ行ったら、切符売場で「ここからは出ない、ジャノブへ行け」と言われた。なんだよ、「地球の歩き方」がこれではまるで「地球の迷い方」だ。

さて、そのあとだ。重いカバンを担いであっちへ迷いこっちへ走り、やっとの思いでタクシーをつかまえてジャノブへ行った。着いたら、運転手が切符売場はあそこだよと指す。見るとやけに小さな建物だ。中へ入っていったら、ひげ鬚もじゃのオッちゃんが机に坐っていた。

その男に「カーシャーン行きのバス」と言ったら、彼がなにやら数字を書いて差し出した。「26万リアル」とある。ヘェ、3000円? 随分高いバスだなァと思って払った。途端に、横に居た男がさっと僕の荷物を持って歩き出した。慌てて追いかけていったら、行った先はバスではなくて、なんと、タクシーだ。

「おいおい、俺はバスに乗るんだぜ。タクシーじゃないよ」

大声で叫んだら、その男、怪訝そうな顔で、

「だってあんた、この車の代金をあそこで払っただろ?」

なんのことはない。切符売場はタクシーのだった。道理で高いはずだ。でもタクシーで3000円は安いな。

よほど、こいつの車で行っちまおうかと思ったが、ぐっと思いとどまった。いやいや、ここで妥協したら男がすた廃る。初志貫徹だ。やっぱり俺はバスで行くぞ!

直ちにさっき先刻の事務所へ取って返し、きっぱりした口調で、俺は断固バスで行く、お金を返してくれ、と言った。

「タクシー、安いでしょ? バスよりタクシーになさいよ」、と彼。
「いや、バスだ」、と僕。

どうしてバス? 俺はネ、バスの旅が好きなんだよ。なんでもかんでもバスと言ったらバスだ。バス、バス、バスだっと十回くらい繰り返した。彼は呆れ顔でしぶしぶお金を返してくれた。

だが後で数えたら4万リアル足りなかった。見事な抜きわざ技、敵ながら天晴れだ。

そこから200メートルくらい歩いたところに、正真正銘のバスターミナルがあった。大きな建物で、中はごったがえしている。ぐるりがみんな切符売場の窓口になっていて、それぞれの窓口で男たちが怒鳴っている。

「エーッ、こっちの車はいい車だヨッ。テレビも付いてるヨオ。トイレもあるヨーッ」、てなことを言っている。まるで魚河岸のセリ売りだ。沢山のバス会社がそれぞれ客引き合戦なのだ。

傍にいた紳士に「ベストクラスのバスは何処?」と聞いて、教えてくれた窓口でカーシャーン行きの切符を求めた。1万5000リアル、つまり180円。

バスは、なるほど、ベストクラスだ。冷房完備、テレビまで付いている。ボルボの新車だ。午後2時に発車。既にホテルを出てから3時間だ。やれやれ。バスに乗るのも楽じゃァない。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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