PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-イラン編(4)
2009年10月25日 07:00 JST
イラン・カーシャーン旧市街。(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年10月25日】5月17日。イラン2日目。
目覚めて、窓を開けた。目の前にぬっと雪をいただいた山だ。トーチャール山、3200メートル。大きい。おもいがけなかったので、オッと声をあげた。
外へ出てみた。まだ午前10時だというのに日差しはカッと強い。木陰へ入るとスッと涼しくなる。空気が乾燥しているのだ。ホテルの前の道路は、車、車でぎっしりだ。信号もない街角へ、車が三列となり四列となりで勝手に突っこんでいく。ブーブー警笛を鳴らす。土ぼこりが立つ。この街も渋滞と排気汚染か。起きて外を見た時は気づかなかったが、山の麓(ふもと)も排気ガスの靄(もや)がかかっている。あの美しかった町が! ブルータス、お前もか。僕はがっかりする。
こんな町には居たくない。ホテル探しはやめてさっさと退散だ。今日中に旅立とうと即座に決めた。
その前にしておかなければならないことがある。
機中のお勉強で、この旅のおよそのルートをあらかじめ決めた。まず、テヘランからイスファハーンへ行き、エマーム広場のモスクを見る。次いでゾロアスター拝火教の聖地、ヤスド。そこから、シーラーズへ。ペルシヤ遺構のペルセポリスを見る。バスで南下する旅だ。これは、イランの現代から近世、中世、古代へと遡(さかのぼ)る旅となる。
このプランを実行するなら、シーラーズからテヘランへ戻る飛行便を真っ先に予約しておかなくてはならぬ。このライン線は満席になることが多いと聞いた。もし飛行機が駄目でテヘランへバスで戻るとなったら、20時間もかかる。そのあとすぐ成田への飛行と続くから、これはかなりこたえる。
午前中、タクシーで旅行会社を往復し、27日夕刻のシーラーズ発テヘランまでの予約航空券を求めてきた。
この往復に使ったタクシーの運転手が片言英語の話せる話好きの男だった。彼とよもやまよもやま話をしているうちにたまたま話題が40年前のテヘランに及んだ。
「当時はシャー国王の時代だった」。そう僕が言ったら、間髪を入れずに彼が答えた。
「シャー国王はグッドだった。それにひきかえ、ホメイニはバッドだ。彼はシットだ!」
イランに来て、ホメイニはシットだと言う奴(やつ)に会うとは思ってもみなかった。え、そんなこと言っていいの? 思わず聞き返したが、彼は重ねて「ホメイニはシットだよ」と繰り返した。イランの人は本音と建前が違うのかな、それとも、こいつがあまり信心深い人でないからか? しきりと首をかしげたものだ。
降り際に、彼が言った。
「日本人はやさしくて親切だよ。俺は日本人が好きだ」
有り難う。しかし、いまの日本は、イランを「悪の枢軸」と名指しで攻撃するブッシュ奴に、丸々加担をしているんですよ。褒められてはキマリが悪いです。慌ててサッカーの話でお茶を濁した。
「ワールドカップなァ、北朝鮮とバーレーンをやっつけて、仲良くイランと日本でドイツへ行こうぜ!!」
戻りの航空券を確保したら、もうテヘランに用は無い。バタバタと荷物をまとめて、外へ出た。さて、今夜はどこへ泊まろう?【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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