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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(3)
2009年10月24日 07:00 JST


イラン・カーシャーン旧市街。(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年10月24日】ホテルへのタクシーを探す。空港の雲助運転手には注意しなくてはならない。どこの国の空港にも、その手のワルが必ずいる。ちょっと年寄りで、やや気弱そうに見える運転手を見つけて交渉をした。7万リアルというのを5万で行くことになった。日本円でいうと約600円だ。

ところで、通貨の「リアル」だが、ここではインフレが年々進行中で、1年に40%貨幣価値が下る。だから、1ドルが8800リアル。空港の銀行で500ドルを両替したら、なんと440万リアルになった。1万リアル札の4タバ束と数十枚の札がドサッとカウンターに積まれた。とても片手では持てない。

ウズベキスタンやラオスでも小包くらいの札束だったが、この国も同じだ。イランでは、カードはおろかトラベラーズチェックも使えない。アメリカとの関係悪化で決済不能だからだ。旅の間、現金とパスポートは肌身離さず歩かなくてはならない。

さて、その運転手だ。走りだしてものの5分とたたないうちに、「私の息子は大学に行ってます」と切り出して来た。

「だから、お金がかかります。スミマセンがこのタクシー代、10ドルにしてもらえないでしょうか?」。彼はいま55歳。エンジニアだったが45歳で引退してタクシーの仕事に就いたそうだ。

「ところでネ、私は日本のヤマトー市へ行ったことがあるんですよ」
「ヤマトー市? どこだろ?」
「ザーマ市の近くです」
「ああ、沖縄かな?」
「そう、沖縄。ところで10ドルはどうでしょう?」

大和市も座間市も沖縄ではない。

「あのねぇ、息子を大学に行かせてると、その分、タクシー代が高くなる話なんて、聞いたことないよ。5万リアルって約束したろ? 約束は約束だよ」

彼は黙ってしまったが、なんだか冷たいことを言った気がして、そのあとこちらも落ち着かなくなった。有り難いことに、それ以上彼は要求しなかった。ホテルへ着いて1万リアルを追加してあげたら、胸に手を当て「シュークレア!」「シュークレア!」とニコニコしながら走り去った。イラン到着早々にもめ事もいやだから、ホッとする。

深夜の到着とあってこのホテルを1晩だけ日本で予約してきた。1泊1万8000円。こんな高いホテルに泊まってはいられない。明日はまずホテル探しだ。そう思って、すぐにベットへもぐりこんだ。午前2時だ。【了】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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