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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-イラン編(2)
2009年10月23日 07:19 JST


イラン・カーシャーン旧市街。(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年10月23日】記録を旅の初日に戻そう。

5月16日。月曜日。午後3時に成田をたった。イラン航空ソウル経由テヘラン行き。往復運賃13万円也。

飛行機は、ソウルのあと、北京、ゴビ砂漠、カシュガル、ウズベキスタン上空を飛んで、テヘランへと着く。成田から14時間だ。機内にはほとんど日本人は見当たらなかった。イラン人が大半で、なかへ入ったらムッと胸に来るような強い体臭が充満していた。フライトアテンダントは黒ずくめの服装で、御丁寧に帽子まで布の垂れ下った黒だった。さすがイスラム共和国のイラン航空だ。

イラン航空についてはおかしなうわさを聞いたことがある。飛行中、礼拝時間になるとイランの飛行機はメッカの方向に機首を向け、機首を下げて恭しくお辞儀をしながら飛ぶという話だ。これ、ほんとかな?

もっぱら、ガイドブックを読んだり、囲碁の本を読んだりして過ごす。脈をとったら、心拍欠損が消えている。日本を離れるといつもこうなる。旅に出るとあっという間にストレスが消え、調子が良くなるのだ。

ゆったりした気分で、時々、ウトウトと居眠りをした。

テヘランには、深夜零時近くに到着した。真夜中だというのに、空港の出口は出迎えの人だかりで大変な混雑だ。みると、女性はみんな真っ黒なチャドルをかぶっている。チャドル(黒衣)ってのは、昔の日本の被衣(かつぎ)だな。顔はみな出しているが、見るとぞっとするような美人もいる。黒い大きな瞳だ。

ふっと、40年前に、テヘランへ入った日のことを思い出した。

東京大学カラコルム遠征隊の一員として、僕は1965年にパキスタンのカシミール地方へ入ったが、登山が終わっての帰途、第二次印パ戦争が始まってしまった。インド空軍の空襲があったりして、在住日本人は総引き揚げ、僕は遭難事故の後処理をする仕事があり日本行最終便に乗れなかった。仕方がないから、そのあと、カラチを脱出してテヘランへ出た。

当時、イランはパーレヴィ国王の時代で、イランの「西欧化政策」を推し進めていた。テヘランに着いて驚いたのは、パキスタンとイランの違いだ。カラチでは、すべての女性がみんなベール黒い布で顔を蔽(おお)っていた。その姿は、埃(ほこり)っぽくて暗いカラチの町と相まって、ひどく陰気くさく不気味なものに見えた。テヘランへ入ったら様相ががらりと一変した。女性が町に溢(あふ)れている。色とりどりの華やかな服を着、顔も堂々と表に出して往来を闊歩(かっぽ)していた。同じイスラム圏でもこうも違うかと目をむいたものだ。

その時のテヘランの町並みは美しく新鮮であった。

それから9年たって、ホメイニのイラン革命が起こった。「近代化」から「イスラム主義への回帰」だ。国王は追放され西欧化はストップ、イスラム主義が国を蔽った。いま見る空港の、黒ずくめの婦人の服装がイランのその後の変化を物語っている。

大きなカバンを引きずって、黒い服の間をすりぬけながら往時を回顧し、変われば変わるもんだなあと、ひとり呟(つぶや)いて歩いた。【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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