PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-タイからラオス編(50・完)
2009年10月21日 06:49 JST
タイ・ナコンパノムの露店街。(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年10月21日】夕方4時、そろそろ荷物をまとめないとと思って部屋の片づけをしていたら、コンコンとドアをノックする人がいる。開けてみてびっくりした。一昨日の4人のお嬢さんが戸の前に立っていた!
4人とも正装だ。きちんとしたスーツを着ている。ポーさんなんかタイの民族衣装だ。ジェブさんが代表して口上を述べ始めた。
「今日おたちになるとお聞きしましたので、私たちのささやかなプレゼントを持ってお伺いしました。一昨日はほんとに有り難うございました。私たち、とっても、とっても楽しかったです」
大きな包み箱を僕にさし出した。箱の上に一輪の赤いバラが添えてある。
「えーッ、こりゃまたどうも。おそれいりますウ」
思いがけないことだったので、僕はすっかり慌ててしまった。「こんな、こんな、ご丁寧にィー」、へどもどわけの訳らんことを口走って、取り散らかしているがともかくどうぞ部屋の中へ、と言った。
「いえ、私たちはここで失礼を致します。これをお届けにお邪魔しただけですから」
僕もなにか差し上げたいが、考えてみたらなんにもない。仕方がないから、「ちょっと待って」と言って、残っていたピース10箱ほどをかき集めて彼女らに渡した。
「これ、貴女(あなた)たちのボーイフレンドにあげて」
エレベーターまで送っていったら、扉の閉じる寸前、眼鏡のジェブさんと愛嬌(あいきょう)のニンさんが、「エーン」と掌(てのひら)で目をこすって泣くまねをし、次いで人にすがりつく格好をした。実はこの動作は先日のカラオケスクリーンにやたら映し出された映像で、僕がその場でそっくりそのまねをして「タイのカラオケはこればっかりだね」とやったものだ。僕もすぐさま、「エーン」と泣いて、すがりつく格好をして、みんなで大笑いをしたら扉が閉まった。
部屋に戻って彼女らのプレゼントの箱を開けたら、カードとタイ民族衣装の男物の上衣が入っていた。ぶ厚い麻織りのやつで、これは相当に高価なものだ。一昨日、僕が支払った分の合計をはるかに上まわるだろう。
まいったな・・・。
カードの文章は、
お会いできてうれしゅうございました
“We are to be pleased and nice to meet you”
から始まって、末尾には、
ずっと貴方のことは私たち忘れません
“We will remember you in our minds forever.”
とある。「永遠にforever」だってさ、泣かせるぜ、こりゃあ。
アドレスとEメールナンバーがカードの隅に書いてあった。機械音痴の僕だからEメールはまったく駄目だが、日本へ帰ったら早速この4人に礼状を書いて、なにかかわいらしい日本のものを探して送ってやらなくちゃあ。
カードの文章の終わりに、^_^、ニコニコ印が書いてあった。どこの国の女の子も、この印は万国共通だな。僕も彼女らへ礼状を書いたら、末尾に^_^、ニコニコ印を書いてやろう。
昨日、ここをたたなくてよかった。ナコンパノムに居たかいがあった。
これからバンコクへ向けての飛行機に乗る。バンコクに2晩泊まって日本へ帰る。これでほんとに、この記録は終わりだ。【了】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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