PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-タイからラオス編(49)
2009年10月20日 09:27 JST
タイ・ナコンパノムの露店街。(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年10月20日】ラオス その四。
これはまったく個人的なこと。
旅の途中でメマイや発作に襲われ、また、首の張りの痛さに悲鳴をあげて思った。確実に、刻一刻と「夕暮れ時」が僕に迫っている。「あたりの森が黒ずんで」見えてきているんだ。こりゃあ急がないと。
でも、急ぐと言っても何に向かって急ぐんだァ? 考えてみれば、僕には急いでやらなければならないことなど、ひとつもない。せいぜい、訪ねてみたい土地や国が、たくさんまだ残っているということくらいだ。しかし、そこを訪れたって、何が生まれるというものでもあるまい。それでも、「急がないと」という、感覚だけは残った。
この感覚は一体何だ? きっと、「夕暮れ時で森が黒ずんで見えてくる」とし年齢になると、誰もが感じるえたいの知れない漠とした不安の感覚なのかもしれない。
しかし、楽天家の僕は一方で、今更じたばたしたって始まるめえ。夕暮れになろうと、暗くなろうと勝手にしな。そう居直って、今度の旅を続けた。呑気(のんき)にいきましょう、呑気に。そんなことも心の中で呟きながら。
まあ、こんなところだ。これで今度の旅はおしまい。スケッチも終わりとする。
明日まで何もしないでここでゴロゴロして過ごし、バンコクへ戻ったらチャイナタウンにでも行って、中国料理をふんだんに食べてそれで終わりだ。フカヒレスープと燕の巣と、あ、それから北京ダックを食べよう。「うまかったよォ」なんて書いたって仕方がないから、この旅記録も、よほどの珍事でも起こらない限り、これで終わりだ。
次回の旅記録は、何時、何処で書くことになるだろう?
もうこれで終わりだ、そう書いた翌日の14日午後8時だ。いま、ナコンパノムの空港でバンコクへのフライト待ちをしている。空港と言っても、僕がこれから乗るちっぽけな飛行機が一機ぽつんとあるだけで、あとは何にもない原っぱだ。倉庫みたいな空港建物の椅子(いす)に座っている。乗客はパラパラと数人居るだけだ。
「よほどの珍事がない限り」と前夜に書いたのに、これをまた書き出したにはわけがある。今日の午後に「よほどの珍事」があったからだ。【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、
href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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