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PJ: 石川 信義

昔とんぼの旅日記-タイからラオス編(44)
2009年10月15日 07:00 JST


タイ・ナコンパノムの露店街。(画:石川信義) 

【PJニュース 2009年10月15日】露店街通りのすぐ脇に、その店があった。「土鍋料理」。他の店はさほどでないのに、この店は立錐(りっすい)の余地がないほど人が立て込んでいる。きっとここは美味(おい)しいんだ。その店に入ったが席がない。

席が空かないかな、キョロキョロしていたら、

「ここへ座りませんか?」

シット・ダウン・ヒヤ・プリーズ、と英語で声をかけられた。ふり返ると4人の娘さんたちだった。彼女ら、テーブルの皿をさっさと寄せて、一人ぶんの席を作ってくれた。英語で言ったのは眼鏡をかけたうら若き女性、他の3人も同じような年ごろで、みんなこざっぱりした服装をしている。一見してこの辺りではハイクラスのお嬢さんたちに見える。好意に甘えて、その席へ座った。

彼女らも鍋料理を食べている。野菜や肉や魚のお団子のしゃぶしゃぶ風。みんな口をそろえて僕に自分たちの鍋を食べなさいよと進めるすすめる。それではと僕もそれをつまみ、他の料理も注文して彼女らにすすめた。

眼鏡さんがなんとか英語を話せる。二人は、僕がゆっくりゆっくり手まね、身ぶりを交えて話をすると、何とか理解する。残りの一人はさっぱりだ。

「どこからいらしたのですか?」
「日本。東京からです」

おきまりの質問から始まって、それから今度はラオスの旅の話、ナコンバノムの町の話から、話題はさらに発展して、ベトナム難民の時計塔、果てはホーチミン・ルート、ラオスの内戦となっていったのだが、ここまで来ると彼女らの理解の糸は切れたようだ。

「日本はどういう所がよいですか?」

僕は、日本のために良いところを大いに強調したいのだが、内心、「日本もひどくなっているんですよ、最近は・・・・」と呟いて、目を輝かせている彼女らに少し済まないと思う。

「日本へいらっしゃい」
「だって、お金ないものォ」

と、みんな屈託なげに笑う。みんな明るくて人懐こい。

彼女ら、インテリ層に違いない。冗談を解する。合いの手も打てる。僕への気遣いも十分でやさしい。好感が持てた。

席を立つ段になったら、食事代はあたしたちが払います、と彼女らが言う。冗談ではありません。僕の方が年上ですよ、そう言って僕が払ったら、こう言い出した。

「あたしたち、これからカラオケしようかって話をしていたんです。よかったら御一緒に行きませんか? そこは私たちが持ちますから」

「どこ?」と聞いたら、「リバー・ビュウ・ホテル。カラオケ・ラウンジがあるんです」、と。リバー・ビュウ?、俺のホテルはグランド・ビュウだったよな、まあどこでもいいや。

「行きましょう」と僕は答え、トクトクを捉えようとした。そうしたら彼女ら、「あたしたち、車なんです」と言った。見ると彼女らの車はニッサン車で、この辺の車には珍らしくピカピカだ。「ほう」と僕は感心をし、あらためてこのお嬢さんたちを見る。どう見たって折り目正しい良家の子女だ。安心して娘さんたちの車の助手席に乗りこんだ。

「え、こんなにいいホテルあったの?」【つづく】

■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。

著書に、『心病める人たち』岩波新書(1990年)、 href="http://books.livedoor.com/item/1754987">『鎮魂のカラコルム』岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』(星和書店)など。

【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。

石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』

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