PJ: 石川 信義
昔とんぼの旅日記-ウズベキスタン編(18)
2009年07月03日 05:32 JST
(画:石川信義) 
【PJニュース 2009年7月3日】そのあと、昨日のキャラバン・サライへまたも行き、その向こうの「ラビの池」でスケッチをした。ラビの池と、その縁に立っているゴツゴツした瘤(こぶ)だらけの樹(き)を描いた。
「Am Brunnen vor dem Tore(泉に添いて), Da steht ein Lindenbaum (繁る菩提樹)」、昔、二高のころに唄(うた)った歌を口ずさんだ。
夕映えがきれいだった。池のほとりに座りこんで、次第に赤く染まる空を見ていたら、日本人の二人の女性に声をかけられた。
「日本の方ですか?」。そうですと僕は答え、きれいな夕焼けだネとかなんとか三人で話をしていたら、急に空腹を覚えた。考えてみたら、昨日の夜から何も口にしていない。
二人は、一方がチビでふっくらの20歳台、一方がのっぽでお痩(や)せの30歳台、見た様子ではバックパックの貧乏旅行をしているようだ。しかし、旅にすれた感じはなく、好感がもてる人たちだった。
それで僕は、「これから夕食なんだけど、よかったらごちそうしましょうか」と言った。「え、いいんですかぁ」という二人の返事で、早速二人を昨夜のアラビアン・ナイトのレストランへ案内した。
まずビールで乾杯。野菜スープ、羊と牛のカバブ、鶏の揚げ料理などを注文する。二人は、「ここ、お部屋も素敵!」なんてことを言いながら、気持ちがいいくらいモリモリ食べた。
彼女らはウズベキスタンに来て3日目ということだが、まだ10ドルしか使っていないとか。ほんと? びっくりした。
聞けば、タシケントからウルゲンチまで二人はバスで来た。僕は飛行機でひとっ飛びだったが、バスだと20時間以上も砂漠を走るのだ。おまけにヒバとブハラ間は、ニュージーランドのツアーバスにタダ乗りで来た。なるほどこれなら3日間で10ドルもうなずける。
二人はこれからウズベキスタンを20日間くらい歩く。お痩せさんはそのあと東欧へ行き、またここへ戻ってきて、それから・・・・、なんてことを言っている。日本女性も逞(たくま)しくなったものだ。無銭旅行に近いやり方でかなり難渋する国を歩っている。おまけにイスラム圏が好きなんだとか。変わっている。
ふっくらさんはおっとりで田園型、名は佐藤さん。お痩せさんははっきりで都会型、名は高田さん。珍妙な取り合わせだったが、二人は前々回の旅でたまたま知り合い、それからはいつも二人一緒の旅をしているそうだ。弥次喜多の女性版だナ。
さっきはきれいだったネ、日本の夕焼けと色が違うな、たまたま夕焼けの話になったので、「トブラック」と「ヒバ」で見た落日の話をして、ついでに、?太古の昔お手々つないで論?から?黒人奴隷夕焼け論?まで開陳した。二人がウン、ウンと大まじめな顔でうなずくので、調子に乗ってさらにこんな話もした。
「黒人奴隷は、 ”I am so glad sun go down(夕日を見るのは嬉しい)”と唱(うた)ったがネ、ブルースの代表、セントルイス・ブルースの唄(うた)い出しは、“I hate to see the evening sun go down(夕日を見るのはきらいだ)”
って言うんだ。どうしてだと思う?」
「どうしてですか?」
「失恋の歌だからさ」
あ、そうか、失恋して夜一人になると一層つらくなるからでしょ? そうだろうね。いや、失恋した相手の人が西から来て、また西へ帰っていってしまったから、西へ落ちる夕陽(ゆうひ)を見るとついその人を思い出してしまう。それで夕焼けがきらいなのかな?
ワァ、素敵! 二人はそう叫び、高田さんは、私も男の人にそんな思いをさせてみたいなあと言った。佐藤さんは、夕焼けって見る人によって違うんですね。あたしも明日から夕焼けを見たら、うれしいのか悲しいのかよく考えてみよぉっ、と言った。
あのねえ、夕焼けは考えるんじゃあなくて、感じるものなんだけどなァ。
こんなばか話で夕食は終わった。三人の食事代金15ドル也。
外へ出たら、もう真っ暗だ。人通りも絶えている。うら若い女性をこんな暗闇の中でほっぽり出すわけにはいかない。二人の宿まで送っていった。見たら、暗い路地奥のひどいオンボロの民宿だった。二人で一泊6ドルとか。
「おやすみなさい。これからも良い旅を!」【つづく】
■関連情報
石川信義(いしかわ・のぶよし):1930年、群馬県桐生市生まれ。海軍兵学校78期、旧制二高を経て、東京大学経済学部・医学部卒。学生時代は東京大学スキー山岳部所属。61年、第5次南極観測隊に参加。65年、東京大学カラコルム遠征隊の副隊長・登攀隊長。東京大学附属病院神経科、都立松沢病院勤務を経て、68年、群馬県太田市に三枚橋病院を創設し、日本初の完全開放の精神病院を実現した。以来、精神病院の自由・開放化、精神障害者の地域化(ノーマライゼーション)運動に尽力する。
著書に、心病める人たち 開かれた精神医療へ岩波書店(1990年)、鎮魂のカラコルム岩波書店(2006年)、『開かれている病棟』『精神病院を語る』(共著)『開かれている病棟おりおりの記』(以上、星和書店)などがある。書評は(中日新聞)鎮魂のカラコルムなど。
【むかしとんぼ】ムカシトンボ(昔蜻蛉)、学名Epiophlebia superstes。トンボ目・ムカシトンボ科のトンボ。体長約5センチ。春季、渓流で見られる。日本固有種。原始的なトンボの形をつたえ、生きている化石といわれる。日本以外では近縁種のヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi)がヒマラヤ山脈周辺に分布するのみ。
石川信義ブログ『昔とんぼの旅日記』
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