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PJ: 小田 光康

ネットニュースの有料化はあり得るのか(上)
2009年12月29日 09:50 JST


PJニュースの有料化は可能なのだろうか。 

【PJニュース 2009年12月29日】世界的なマスメディア不況の中、欧米でネットニュースの有料化が進む中、日本国内でもその兆候が現れた。米国の有力経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は12月15日、月額1980円の日本版有料ニュースサイトを開設した。これを迎え撃つ日本経済新聞は来年の2010年にネットニュースの有料化を表明しているが、月額4000円程度と近々、公表する予定だ。国内外のネットニュース有料化の波を探ってみた。

WSJ日本版を発行するWSJジャパンは今年6月、WSJを発行する米ダウ・ジョーンズが6割、ネット証券国内大手のSBIホールディングスが4割出資して設立された。外国有力紙の日本語版有料サイトは初めてとなる。WSJにとって、アジア地域でローカル言語で発行するのは中国語に次いで2番目となった。

一見、無謀とも見える有料WSJ日本版の発行はWSJ本社の既定路線だった。WSJ本社を傘下に持つ米メディア大手ニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会長は12月始め、米紙や講演会などで「良質な記事が正当な対価を得るのは当然だ。優れたジャーナリズムには金がかかる」と主張し、ジャーナリズムに投資していない検索大手グーグルを「ただ乗り」と批判を繰り広げていた。米国では契約者限定の記事がグーグル検索などを経て、無料で閲覧できる状態が続いている。

一方のグーグルは「新聞と協力できる。優れた記事を提供する作業が困難で、高価なのは承知している。デジタル時代のジャーナリズムの責務を果たすために力をあわせる必要がある」とするエリック・シュミット最高経営責任者(CEO)の主張をWSJに寄稿し、新聞や雑誌といったマスメディアの経営危機は、ネット普及に伴う広告ビジネスと情報収集の変化と反論した。このため、グーグルは新聞社サイトの有料記事について、1日当たり5本までしか全文を無料で閲覧できないようシステム改良を行った。

欧米ではネットニュースの有料化議論が大きな話題となっている。この背景にはメディア業界全体を襲う、収支の大幅な悪化だ。ニューズの09年7-9月期の四半期決算では、新聞関連部門全体の売上高は18%減の14億ドル(約1300億円)、営業利益は81%減の2500万ドルと低迷した。また、放送部門の営業利益も5割以上の減益となった。この構造はニューズだけではない。世界の言論界をリードすると言われる米ニューヨーク・タイムズとて例外ではなく、収益力の低下が止まらない。同社の09年7〜9月期の四半期決算を見ると、新聞単価の値上げで販売収入は7%増加したものの、広告収入が27%減少したため、売上高は前年同期比17%減の5億7062万ドルと落ち込んだ。このため、本業の業績を示す営業損益は同8割減の2543万ドルの赤字、最終損益も3562万ドル(約33億円)の赤字と業績が落ち込んでいる。人件費の圧縮などリストラを進めるが、焼け石に水といった状況なのだ。

ネットニュースの有料化は、メディア王のルパート・マードック氏率いるニューズ・コーポレーションがその先陣を切ったかたちだ。マードック氏は09年8月、系列の新聞各紙の電子版を有料化する方針を示した。傘下の経済分野で差別化された有力コンテンツを抱えるWSJは、すでに有料化の軌道に乗っている。また、傘下の英高級紙のタイムズも来春から電子版を有料化する見通しだ。同時にニューズは今後数カ月以内にも米グーグルの検索サービスから系列メディア企業のニュースを引き揚げる方針。ニューズ傘下のニュースコンテンツが、グーグルの「グーグル・ニュース」の対象から外れるほか、検索対象からも外れる見通しだ。

ニューズ関連サイトへのアクセス数が激減するリスクは大きいのだが、長期的に見て、ジャーナリズムの主導権をニュースの流通業者ではなく、その制作者が持ってしかるべきというマードック氏の意向が強く反映されるかたちだ。ニューズ以外にも米日刊紙で発行部数約48万部のニュースデイが、記事を配信する自社サイトでは週5ドルを課金することにした。

こうしたネットニュース有料化の方向性は正当でもっともである。ただし、そのジャーナリズムの正統性が現実的にネット界の奔流となれるかどうかは別問題である。メディアの歴史を振り返ると、それが如実に示されている。その顕著な例がテレビ局の経営構造だ。

一般的にテレビ業界では、テレビ局はコンテンツの流通業者であり、番組コンテンツは制作会社が担当するという分業体制が敷かれている。フジテレビ系列が起こした番組偽装事件「あるある事件」で明るみに出たように、制作会社を絞りに絞って、テレビ局自体は超過利潤に潤うというヤクザや家元といった上納金による前時代的な経営体なのである。これは放送免許という仕組みがコンテンツの流通業者であるテレビ局に情報の流通を独占化させた結果、テレビ局がその利潤の源泉を生み出す制作会社に対して圧倒的な競争優位性を持ってしまったためである。

翻って、グーグルやヤフーなどネットの検索エンジンやポータルサイトは、テレビ局のように国の政策的な配慮によってではなく、自由な経済活動の中での勝ち組としてネット界でその圧倒的な影響力を誇示している。ネット界での情報流通の交通規制が可能な存在にまで発展し、情報流通のボトルネックを押さえるといった構図という点では、これまでのテレビ局のそれと酷似している。現時点ではネット界で有力なコンテンツを制作するサイトよりも、検索エンジンやポータルサイトが競争優位な状況であり、ニューズがこの構図を崩して行くには、波ならぬ努力も必要であるし、ジャーナリズムを担うマスメディア業界との共闘も必要になってくるだろう。

一方、日本国内はというと、「ネットのニュースは無料があたりまえ」といったネットコンテンツ無料論が幅をきかせ、それを後押しするような自称ジャーナリストまで存在する。彼らの言い分の多くは、ネットコンテンツはユーザーから徴収すべきではなく、広告収入に依存すべきというものだ。だが実際、ニュースなどのネット・コンテンツを広告収入のみに頼るのはニュースの制作側からすると、採算割れの危機に直面するうえ、景気変動の波にさらわれがちとなり、経営的には決して好ましいものではない。【つづく】

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