PJ: 小田 光康
佐々木俊尚氏は「ジャーナリスト」なのだろうか・・・。
2009年08月19日 08:25 JST
私の名前がタイトルにある佐々木氏のネット記事 
【PJニュース 2009年8月19日】7月半ば、ジャーナリストの倫理についてネット時代の取材マナーとオーマイニュース終焉、ITジャーナリスト佐々木俊尚氏に聞くというインタビュー記事に続けて、「ジャーナリストの倫理と内部告発-オーマイニュースを事例に」という連載((上)、(中)、(下))を書きました。この中で、ITジャーナリストの佐々木俊尚さんの利益相反・背信まがいのずさんな取材法について触れたのですが、事前事後話を含めてこれらに付け加えたいと思います。それは佐々木さんの「ジャーナリスト」としての立場やその行動についてです。
ネットの本質、ネットの流儀とは
佐々木さんの取材と報道の手法には首をかしげたくなる場面が多々ありました。私が佐々木さんにこの取材を最初に依頼したのは今年5月始めです。佐々木さんの公式ホームページにはこう記されていました。
「取材や打ち合わせ、それに伴う移動などのために携帯電話、固定電話には対応できないことが多く、申し訳なく思っています。 このため連絡は、できればメールでお願いします。お返事は12時間以内にお送りします」
言動不一致ということでしょうか。佐々木さんがオーマイニュースで行った利益相反・背信まがいの行為についてどうしても聞きたかったたのですが、2-3回メールで取材依頼をしても無視、電話をしても音信不通でした。結局、6月のはじめになってようやく電話で佐々木氏とコンタクトが取れました。取材申込の件を伝えると、佐々木さんは「ああ、あの件ですか。忘れてました。いま忙しいので」と答えました。
私は佐々木さんに、取材についての規範意識・倫理について取材を申し込みました。オーマイニュースの件は主従関係でいえば従でした。その時の取材依頼の文面はこうです。「佐々木さん、PJニュースの小田です。取材についての規範意識・倫理について取材させていただきたいと思います。まず、オーマイニュースの件です」。
確かに、佐々木さんにとって取材されたくないテーマだったでしょう。電話口の声からも、佐々木さんがいらだっていることがひしひしと伝わってきました。結局はメールのやりとりでの取材に応じてくれ、約2週間後にメールでの回答をいただきました。それは6月24日でした。佐々木さんは私への回答の直後にオーマイニュースについて小田光康氏からの質問というタイトルで、自身のブログにその取材内容を掲載しました。この後、私も同じ内容の記事と「ジャーナリストの倫理と内部告発-オーマイニュースを事例に(上)」をPJニュースに出稿した後、それぞれお礼と共にその旨を告げるメールを佐々木さんに送りましたが、どれも返信はありませんでした。
こうした取材の経緯まであれこれと公開するのが、佐々木さんのいうネットの本質、ネットの流儀というのでしょう。佐々木さんは私の質問に対してこう答えています。
「ネットの本質、ネットの流儀とは以下のようなことです――ニュースの収集から編集、公開にいたるまでのプロセスをすべて可視化し、その可視化されたプロセスに対して外部からの反論や評価、分析などをきちんと受け入れること」
しかも、佐々木さんはオーマイニュースの暴露記事の件でも分かるように、「言われなければ、なんでもしていい」という考え方にいます。私は「自分がされたくないことはしない」という立場のほうを支持しますが・・・。ただし、この記事は別問題です。フリーライドを奨励し、利益相反・背信まがいの取材を正当化するジャーナリスト、兼政府審議委員、兼大学教員に大きな疑問がありますから。「自分がされたくないことはしない」というのは西欧でいう「ゴールデンルール」といって、世間の秩序を紡ぎ出す法体系の基本的な考え方です。これは日本国憲法にある公共の福祉という考え方にも顕現されています。
主題のすり替え、自己責任・・・
やりとりの中で、佐々木さんがいつになく感情的になっていると感じた場面がありました。私が取材したテーマは「取材倫理」が主だったのですが、「オーマイニュースについて小田光康氏からの質問」と記されたようにいつのまにか「オーマイニュース」が主となっていました。
そして佐々木さんは、阿佐ヶ谷の居酒屋で行われたイベント「No more! OhmyNews 〜オーマイニュース消滅記念!(元)編集部発・最後の炎上大会〜」を「ふざけた名称のイベント」と表現し、オーマイニュース終焉に関する複数の記事がPJニュースに掲載されたことについて「なんとも百花繚乱である。百花繚乱という言葉が的確なのかどうかは置いておくとしても」と揶揄したのでした。少なくとも、このイベント主催者・担当者はオーマイの問題について真摯に取り組んでいました。佐々木さんにもその旨を伝えたうえで、出演を依頼したそうですが、断られたといいます。
主題を意図的にすり替えたのでしょうか。ジャーナリストとしての倫理という取材内容を、意図的にか「ふざけた」レベルに落とし込もうと試みたと、私は勘ぐってしまいました。その上で、佐々木さんは私の質問に対して、こう答えました。
「ただ気になるのは、4年も前のブログのエントリーについて今ごろになってご指摘されていることです。4年間もこの記事に気づかれないまま放置されていたのですか? 『小田光康』のキーワードでGoogle検索すると、検索結果の2番目にヒットする記事ですよ? なぜいまになって?」
確かに私は4年前に、仕事の時間を割いて、佐々木さんの取材にライブドア本社内にある窓際の会議室で答えました。けれどもその後、佐々木さんからこの取材記事がいつ、どこで掲載されたのかは知らされていません。常識的なジャーナリストであれば、取材先にお礼の言葉と共に、記事の掲載を送るか、知らせるかはするはずです。取材先は無償で時間を割き、取材を受けているのだから、このくらいのことは当然でしょう。佐々木さんは商売として取材しているのですから。
取材範囲外の内容を含んだ記事を勝手に掲載し、その記事を見なかった方が悪いという論理はいかにも非常識なものですし、これはそもそも佐々木さんが常々批判する「マスコミの上から目線」に相当するのではないでしょうか。また、グーグルで自身の名前を常日ごろ検索しているような人物などいるのでしょうか。私にとって、よほどの自意識過剰としかいいようがないのですが。
ともあれ、佐々木さんは利益相反・背信まがいの行為をしてまでオーマイニュースを外部のメディアで批判したのでした。佐々木さんの公式サイトによると、氏は「成城大学文芸学部非常勤講師」「早稲田大学政経大学院非常勤講師」「東京大学情報学環『電通コミュニケーション・ダイナミクス寄付講座』特任研究員」とあります。これら大学で、ジャーナリストとしての倫理・規範意識というより、取材時の挨拶や礼儀といった常識について、ジャーナリストを目指す学生らにどう教えているのでしょうか。
政府の審議委員とジャーナリストを兼務できるのだろうか
佐々木さんはまた、政府・自治体の審議会委員でもあります。「杉並区住基ネット調査会議委員」「経済産業省情報大航海プロジェクト制度検討タスクフォース委員」など多彩な顔を持ちます。
「ジャーナリスト」と名乗る人物が、政府・自治体の審議委員とはちょっと意外でした。審議委員でもかまわないのですが、少なくとも、精神的な独立性を保って、いつもその審議会に批判的な立場で物事を論じてもらいたいと思います。納税者である一般市民は誰もがそう思っています。佐々木さんの過去の記事を探しても、これら権力機関である審議会の批判は見当たりませんでした。
権力を監視していたはずが、いつの間にか取り込まれてしまったのでしょうか。ジャーナリストが「アチラ側の人」になってしまっては、もはやジャーナリストではないでしょう。オーマイニュースなど弱小メディアを大々的に批判して、政府という大きな権力は批判しない、「強きをたすけて、弱きをくじく」といったところでしょうか。
情報の「フリーライド(ただ乗り)」は許されるのだろうか
佐々木さんからの批判を受けて、私は佐々木さんのほとんどの著書に目を通してみました。佐々木さんはよく取材されて、ためになる内容が多くありました。その著書の『グーグル』(文春新書)を読んでいると、ピューリッツアー賞を受賞したトーマス・フリードマン氏の著書『フラット化する世界』の内容を思い浮かべました。アメリカの状況を日本に当てはめてみるとこうなんだと学んだ気がします。
近著『仕事をするにはオフィスはいらない』(光文社新書)も読みました。拙著『パブリック・ジャーナリスト宣言。』の「市民メディア経営のコツ」という章に似ている内容もあり、佐々木さんも苦労しているのだなと感じました。ただ、この本に気になった下りがありました。新聞記事のアーカイブを持つ高価な「日経テレコン」を野村證券のオンライン金融商品取引である「野村ホームトレード」を介して、無料で利用する「裏口」をご丁寧に教授していることです。
佐々木さんはこの著書の中『高価な新聞記事データベースを無料で使う』という項目を立て、「・・・実は裏口があります。(中略)私はオンライントレーディングはしていないのですが・・・。(中略)お金もいっさいかかりません(ただ、口座を開いた後、支店の若い営業マンが繰り返し家を訪ねてきたのには閉口しましたが。)(中略)月々の利用額が5万-8万円にも上っていました。これがすべてゼロになったのですから、たいへんなコスト削減になったわけです」と書かれています。
この文面からは佐々木さんがオンライントレーディングをする意志もなく、無料でアーカイブを利用する目的で野村ホームトレードを利用しているとも受け取れてしまいます。いみじくも佐々木さんは情報を扱って収入を得るプロの「ジャーナリスト」の仕事をしています。
さて、新聞記事データベースをタダ作ることはできません。このデータベース記事には広告が付きません。このシステムを担っているのは野村證券が集めた投資家からのカネです。これら投資家は情報料を支払い、その対価として、高価な新聞記事データベースが利用できるのです。ただし、これを実際に金融取引をしない登録者に提供するのは野村證券の広告という意味合いがあることも申し添えておきます。
金融商品取引の意志もなく、タダで利用するのは「フリーライダー(ただ乗り野郎)」というべきものですが、佐々木さんはこれをどう考えているのでしょうか。こんなことをすること、ましてやそれをカネもうけのために公言することは、どういった了見なのでしょう。野村證券と日経新聞の損失は誰が支払うのでしょうか。佐々木さんが閉口したという野村證券の若い社員の給料は誰が稼いでいるのでしょうか。
タダで有料情報を、というのであれば、佐々木さんはその著書を出版社から出版したり、記事を新聞や雑誌に掲載してオカネを受け取るのでなく、すべてネットで無料公開すればいかがでしょうか。「フリーライド」の唱道者であれば、当然でしょう。
「上から目線」「傲慢」なき、ジャーナリストの独立不羈の原則は
佐々木さんはことあるごとに「上から目線」だの「傲慢」などと「マスコミ」を批判しています。その姿勢に私は共感します。ただ、気になる点があります。多くの佐々木さんの著作は新聞社や出版社といった「マスコミ」から発表されています。経済的にも精神的にもいつのまにか「マスコミ」に取り込まれ、結局「マスコミ」の手のひらの上で叫んでいるだけ、という状況に陥るジャーナリストが数多くいることを私は知っています。
「マスコミ」や「政治的権力」から、独立性を保ち、権力批判を続けるジャーナリストを極めるのは大変です、自戒を込めて。【了】
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