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PJ: 藤倉 善郎

【映画】『ザ・コーヴ』と『ビルマVJ 消された革命』を見比べよう
2010年07月26日 08:47 JST


『ビルマVJ 消された革命』(c) 2008 Magic Hour Films 

【PJニュース 2010年7月26日】2本の映画を見た。捏造問題や「表現の自由」をめぐって議論を呼んでいる『ザ・コーヴ』と、07年のビルマでの民主化デモを記録した『ビルマVJ 消された革命』だ。ともに第82回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、前者はご存知の通り受賞し、後者は受賞を逃した。しかし実際に作品を見てみると、明らかに『ビルマVJ』が優れている。この2作品の違いを、ぜひ見比べて欲しい。

■客観的“事実”が見えない『ザ・コーヴ』
『ザ・コーヴ』は、アカデミー賞受賞作品でありながら、隠し撮り、捏造的編集、虚偽の字幕、太地町の漁師たちに対する侮辱的表現などが非難を浴びている。この作品について、「(イルカ保護の)宣伝映画としてはよくできている」と皮肉的に評する声もある。しかし実際に作品を見てみると、そんな上等なものではなかった。

この作品はイルカの保護(というか、水族館等も含めて人間の手からのイルカ解放)を求めるリック・オバリー氏らの主張が随所で語られている。オバリー氏らは「イルカは賢い」から捕獲してはいけないと言いたいようだ。しかし作品で出てくるのは、こんなセリフくらい。

「サーフィンをしていたら、サメが近づいてきた。それをイルカたちが追い払ってくれた」

「イルカと一緒に泳いでいて、彼らに感情があるのだということを感じた」

これだけでは、単なる思い込みだ。イルカが本当にそういうつもりで行動していたのだと、なぜ言えるのか。もちろん、イルカが本当に賢い動物だとしても、太地町民の歴史や文化や生活や職業よりもイルカを優先する理由にはならない。賢い動物を優先すべきだというなら、イルカより人間を優先すべきだ。

水族館のショーに出演するイルカが胃潰瘍になるので胃薬を投与されているとする描写もあった。これもオバリー氏らの活動の根拠のように見えなくもないが、そもそもそれは水族館の問題だ。太地町のイルカ漁が原因ではない。

このように、オバリー氏らがイルカ漁を非難する動機は不明確だ。それでいて、彼らが偽装カメラや水中カメラ、はては暗視カメラのようなものまで、大量の機材を和歌山県の小さな漁港に持ち込んで必死にイルカ漁を撮影しようとしている。正気の沙汰ではない。

隠し撮りなどの取材手法を正当化する要素も見いだせない。彼らの身の危険を感じさせるような映像は皆無で、ただオバリー氏が「殺されるかもしれない」と口走ったり、執拗にコソコソしながら夜陰にまぎれて行動しているだけ。これではプロパガンダどころか、単なるイタズラ外人のオナニー映画だ。イルカ漁への問題提起として扱えるレベルに達していない。

■命懸けで“事実”を記録した『ビルマVJ』
『ビルマVJ』で描かれているのは、07年にビルマで起こった民主化デモ。このとき、ジャーナリスト・長井健司氏が政府軍兵士に射殺された。

軍事政権が燃料の価格を2倍に引き上げたことがきっかけで、数千人規模の僧侶によるデモが起こり、民衆が合流して推計15万人規模の民主化デモへと発展するが、軍によって鎮圧される。これを取材するビルマ人のビデオジャーナリスト(VJ)組織があった。「ビルマ民主の声」放送局だ。このメンバーのジョシュアと名乗る青年が、本作の主人公である。

彼らはデモ現場でハンディカメラを抱え分散して撮影にあたった。その映像や電話連絡の会話、タイから取材の指揮を執るジョシュアの様子が描かれている。

『ザ・コーヴ』と同じく“隠し撮り”映像が多く含まれる。しかし、撮影中のジョシュアが秘密警察に逮捕されるシーンもあれば、長井氏が兵士に射殺される瞬間の映像も登場する。この状況で、誰が“隠し撮り”を非難するだろう。『ザ・コーヴ』と違い、観る者全てがその取材手法に納得できる。

「ビルマ民主の声」の活動の動機も同様だ。国民の生活が脅かされているのに、取材・報道が規制され、外国人ジャーナリストも思うように活動できない。「我々がビルマのことを世界に伝えるしかない」(ジョシュア)のだ。

民衆や僧侶が兵士から暴行される様子を取材しながら「もういやだ」と弱音を吐くメンバーもいる。取材と自らの命をギリギリの線で両立させようとする彼らの言動や行動も見える。こうして、僧侶たちの真剣な眼差しや、拍手で歓迎する民衆の姿、それを蹴散らしたり拘束したりする兵士たち、逃げまどう中でブレまくる映像、背景に響く銃声が記録されていく。

本作はアカデミー賞での受賞は逃したが、代表的なものだけでも、第4回UNHCR難民映画祭、08年のアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(人権賞)、コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭(アムネスティ賞)のほか、09年にも3つの国際映画祭で人権やドキュメンタリー関連の賞を受賞している。

■ドキュメンタリーの説得力
NHK「クローズアップ現代」では、『ザ・コーヴ』は、無関係な映像をつなぎ合わせて、ひとつのシーンであるかのように見せる捏造を行っていたとされる。『イルカを食べちゃダメですか?』(関口雄祐、光文社新書)によれば、「明らかに太地町以外のイルカ漁の映像」も組み合わされているという。一方『ビルマVJ』にも再現映像が含まれており、実は全てが本物の映像というわけではない。再現されているのは、ジョシュアがタイから現地メンバーと電話で連絡を取り指示を出している部分。これは、ジョシュアへの聞き取りや、Googleの電話サービスに録音された音源に基づいた再現だと、原案・脚本のヤン・クロスガード氏は説明している。

『ザ・コーヴ』の映像の問題は第三者が指摘しているものだが、『ビルマVJ』ではパンフレットの中で制作スタッフ自らが再現映像について説明している。観客に対する説明の誠実さの点でも、両作品は対照的だ。

すでに書いたように、実際の映像の説得力は『ビルマVJ』の方がはるかに優れている。撮影者・登場人物の行動の動機や必然性が、はっきりと見いだせる内容だからだ。「これを世界に伝えたい」というVJたちの命懸けの情熱が、客観的事実として映像化されている。だからこそ、ビルマの現状や僧侶や民衆によるデモの切実さも、観る者によりいっそう突き刺さってくる。

『ザ・コーヴ』は、カネを払ってまで観る価値がある映画とは思えない。しかし両方の作品を見比べることで、質の高いドキュメンタリーとは何なのかを意識することができる。ドキュメンタリーの価値を決めるのは、自らの主張に説得力のある客観的事実をどれだけ伴わせることができるか次第だ。こうした考え方は、映像に限らず文章による市民ジャーナリズムにおいても参考になるだろう。加えて、ドキュメンタリー部門で『ザ・コーヴ』に賞を与え『ビルマVJ』を落としたアカデミー賞なるもののバカさ加減もわかるはずだ。【了】

■関連情報
『ビルマVJ 消された革命』(アンダース・オステルガルド監督、2008年・デンマーク・85分)
横浜シネマジャック&ベティ 7月30日(金)まで
川崎市アートセンター 8月28日(土)〜
神戸アートビレッジセンター 7月30日(金)まで(※27日休)
札幌・シアターキノ 7月30日(金)まで
シネマテークたかさき8月28日(土)〜9月10日(金)
ほか浜松 CINEMAe_ra(今秋)、新潟シネウインド(今秋)、KBCシネマ(時期未定)、京都シネマ(時期未定)、フォーラム山形(時期未定)、フォーラム仙台(時期未定)

『ザ・コーヴ』(ルイ・シホヨス監督、2009年・アメリカ・91分)
劇場情報

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