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PJ: 藤倉 善郎

ガス業者がリンカーンに乗ってやってくる!? ある町の悲しい滞納集金の顛末(下)
2009年03月04日 11:22 JST


A氏宅の鍵穴には、何かを詰めた跡。鍵穴に鍵が全く差し込めない状態だ(3月1日、撮影:藤倉善郎) 

(上)のつづき。自宅のガス料金を滞納したら、ガス業者によって自宅ドアに脅迫の張り紙を張られ、水道の元栓を締められたりドアの鍵を壊されたり。暴力団を伴ったガス業者がリンカーンに乗って集金に来るかのような文言でAを脅迫した張り紙を確認した後、記者は、相手方であるガス業者の社長に事情を尋ねた。業者側の言い分をリポートする。

 A氏に対して脅迫や器物損壊を行っていたのは、地元プロパンガス会社の正規社員であるB氏。記者が電話で社長に事実関係を問い合わせると、こんな答え。

「その滞納者の方は、とてもひどかったんです。半年も滞納して、こちらが支払いを請求しても何の連絡もよこさない。ふつうなら、お金がないという人には分割支払いの相談にも応じることがありますが、連絡もくれないのではどうしようもない」(社長)

──それはおっしゃる通りだと思うんですが、Aさんに事情を聞くと、暴力団の名前を出して脅されたりして、怖くて自分から連絡できないと。

「えっ!? ちょっと待って。そんなこと私は知らない。おいB! お前、そんな張り紙したのか?」(社長)

 どうやら社長のすぐそばにB氏自身がいるようだ。受話器から「お前、なんでそんなことするんだ!」と社長の怒鳴り声が聞こえてきた。

「いまBに聞いたら、確かにそういう張り紙をしたそうです。私はいま初めて聞いたんですが、それはよくない。お客さまに対して、それはいかん!」(社長)

──実はそれだけではなくてですね、Aさんはドアの鍵に詰め物をされて使えなくなっているそうで……

「おいB! お前、アパートの鍵になんか詰めたのか! なんてことしたんだ! あ、それも本人がやったと言ってます。こら、B! お前……」

──あの、それだけじゃなくてですね、水道や都市ガスの元栓も……

「こら、B!(以下略)」

 記者にとっても予想外の修羅場になってしまったが、結局、B氏は社長を通じて「都市ガスの栓はいじっていないが、水道の栓を閉めてバルブを外した」と認めた。張り紙については、脅迫的になったのは今年に入ってからで、以前はそこまでしていないというのが、B氏の言い分のようだった。社長によると、「お客さんを呼ばずに張り紙だけするなんてことはない」という。この点は、A氏の言い分と食い違う。それはさておき、双方の言い分を総合すると、ことに経緯はどうやらこんな流れのようだ。

 A氏の滞納が続いたことで集金担当者のB氏は社長から責任を問われ、今年1月の給料からA氏の滞納料金分にあたる約3万円を天引きされた。その後B氏が暴走し、A氏に対して脅迫や器物損壊行為をした。A氏が恐ろしくてガス業者に直接連絡をできなくなっていたために、この脅迫行為が社長に知られることもなくエスカレートしてしまった……。

「うちでは、滞納分を社員に負担させたのは今回が初めて。しかし日ごろから、集金ができないのは90%、社員の責任だと言い聞かせている。それを放置していては会社がもたない。だから今回、Bの給料を天引きした」(社長)

 記者は以前、労働問題の専門家と話していた際、労働者の給料の天引きは原則として法律で禁止されていると聞かされている。また、故意による損害でない限り、損害を社員に肩代わりさせることも違法とされているという。そのことを社長に伝えたところ、「そんなこと言われたら、会社はやっていけない!」(社長)。

 経営者の事情もわからないではない。だとしても、それがB氏の暴走のきっかけになったのだとしたら、社長に落ち度がないとは言えないだろう。もちろん、脅迫や器物損壊はB氏自身による犯罪行為。一方、A氏にも全く非がないわけではない。ガス料金を滞納し、(張り紙に腹が立ったとかカネがなかったという理由はあるにせよ)業者に一切連絡しなかったのだから。この件、いったい誰が責められるべきなのやら、わからなくなってくる。記者は社長に、今回の件でB氏を解雇したりしないでほしいという旨を伝え、こう説明した。

「事情はわかりました。しかし私は、取材のために確認の電話をしただけの第三者。双方の話し合いに干渉するつもりはありません(干渉したら、取材者を名乗る“事件屋”になりかねない)。Aさんには社長のお話は伝えておくので、そのうち連絡が行くのではないかと思う。双方に行き違いがあるようなので、その辺も配慮して、社長の判断で対応していただけますか」(記者)

 社長は最後まで、「申し訳ない」と繰り返していた。しかし記者が謝ってもらうべき話でもないので、かえって恐縮してしまう。とりあえずこの調子なら、A氏が代金支払いの意思をきちんと業者に伝えた上で、B氏から受けた被害についての話し合いを求めれば、解決は難しくなさそうだ。暴力団の存在を感じさせる要素は全くない。その旨をA氏に電話で伝え、取材(?)を終えた。

 この件を記事にすべきかどうか迷った。しかし「ガス料金を滞納したら、きちんと支払う意思表示をしましょう」「違法な集金はやめましょう」「社員に滞納分の肩代わりをさせるのはやめましょう」という3つの教訓として、地名・関係者名・会社名を伏せた上でリポートすることにした。

 ちなみに、B氏の車はリンカーンではなく日本製の軽自動車だった。【了】

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