PJ: 高橋 健太郎
「西山事件」でなく「沖縄返還協定偽造事案」=外務省有識者委員会が「日米密約」認定
2010年03月10日 07:31 JST
【PJニュース 2010年3月10日】3月9日、いわゆる「日米密約」問題を調査した外務省有識者委員会(座長・北岡伸一東大教授)は報告書を岡田克也外相に提出した。1972年に元毎日新聞政治部与党担当キャップ西山太吉記者が「観測記事」で指摘した「沖縄返還時原状回復費肩代わり」などを密約と認定した。
同委員会が作成した報告書は一連の問題を「西山事件」と標記しているが、「沖縄返還協定偽造事案」と標記するべきだ。「西山事件」という文言は「官製用語」、問題の本質を分からなくする。
西山氏が外務省の機密を示唆したことを問題視するのではなく、「違法密約」を結び、財政法や国会法に反して、アメリカへ「用地補償費」を支払った外交姿勢こそが問われなければならない。
同氏は、1971年6月18日付朝刊3面(前日に調印された沖縄返還協定関連記事)に掲載した「米、基地と収入で実とる 請求処理に疑惑 あいまいな”本土並み”交渉の内幕」という「観測記事」を掲載した。
沖縄返還に伴い、米国政府が沖縄県民に補償金を支払わなければならなかったが、「日本政府が、補償金を肩代わりする可能性がある」という疑惑を示唆する内容だ。
同氏は、日米政府の機密公電や機密書類の写しなどを外務省審議官付女性事務官から入手し、これらを参考に記事を掲載。入手した機密公電を、ストレートニュースの形で報道すれば、ニュース・ソースに累が及ぶと考え、機密書類に触れず「観測記事」の形で報じた。
しかし「日米密約」を、ストレートニュースの形で報道しなかったため、世論を喚起できぬまま10月16日に、いわゆる「沖縄国会」が開会する。
12月13日に衆院沖縄・北方特別委員会で、社会党の横路孝弘議員(弁護士から社会党議員・北海道知事・民主党副代表などを経て衆議院副議長)が密約疑惑を追及。しかし、密約の存在を裏付ける証拠がないため政府が逃げ切る。
この後、横路議員は西山記者と接触。後輩記者を通じて機密公電の写しを横路議員に提供した。
1972年3月27日に、衆院予算委員会で横路議員が機密公電の写しを基に政府委員を追及。佐藤栄作首相・吉野文六外務省アメリカ局長らが窮地に立つ。
1973年4月3日に外務省が女性事務官を告発。4日に女性事務官と西山記者が逮捕される。
4月5日付『毎日新聞』1面(朝刊)に、取締役・中谷編集局長名の「毎日新聞見解」を掲載。「知る権利」を訴え、「女性事務官」に詫びた。4月9日に、西山氏のみ釈放される。事務官は、4月15日に釈放。
国家公務員法違反容疑で逮捕された新聞記者は戦後初。「知る権利」をめぐり、最高裁まで争われたが、1978年5月30日に西山元記者の有罪(1審は無罪)が確定した。事務官は1審で有罪が確定(1974年1月30日・執行猶予・控訴せず)
同氏ら25人が2009年3月16日に沖縄返還前に日米両政府交渉実務者らが交わしたとされる秘密文書の情報公開請求に対し、「開示を拒んだのは不当」だとして、国に処分取り消しや1人当たり10万円の慰謝料などを求めて東京地裁に提訴した。
2009年12月1日に原告側が要求した吉野文六元外務省アメリカ局長と、我部政明琉球大学教授(国際政治学)の証人尋問が行われた。
吉野氏は原告側証人として出廷。歴代政権が否定してきた『密約』を締結したこと認めた。外務省では、2011年の1月までに「密約の有無」に関する報告書を公表する予定だ。
公判後の会見で吉野氏は「証人尋問に応じた理由は、我部教授の著作『沖縄返還とは何だったのか』(NHK出版)を読んだのがきっかけ。自分が忘れたことも一冊にまとまっている。真相を明かすことが歴史的だという意識はない」と語った。
また、西山太吉・元毎日新聞政治部与党担当キャップに対しては「時間と費用を費やし裁判闘争を続けている信念には感心している」と述べ、お互いの現役時代には「天ぷらそばを食べたこともあった」と語った。
「密約」を締結したことを後悔しているかとの質問には、「交渉中の事項はすべて秘密。相手国も同様だ。『密約』と言われると反発したくなる。なぜならあらゆる外交交渉は『密約』だからだ」と答えた。
河野洋平外務大臣(当時)から電話があり「『密約』を否定するように要請された事実はあるか」との質問には、河野氏からその旨の電話があったことを認めたうえで、「彼の本心ではないだろう。おそらく事務方から頼まれて私の家に電話を掛けたのだろう」と答えた。
約40年前の西山氏の刑事裁判では「密約はなかった」と偽証したが後悔しているかとの質問には、「検事は政府寄りだ。私を偽証罪で起訴するはずはない。検事も極秘公電を読んでいるので『密約』があったことは分かっていただろう」と答えた。
沖縄返還協定を偽造したため、沖縄県に米軍基地が存在し続けているのではとの質問には「沖縄県から基地が減ることは良いことだ。しかし安保体制の枠組みを考えることも必要だ」と答えた。
同訴訟の判決日は4月9日。 「日米密約」を司法がどう判断するかが問われる。
【了】
■関連情報
参考 外務省のウェブサイト
http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
高橋 健太郎の記事
「沖縄返還協定偽造事案」、いわゆる「西山事件」を振り返る 2009年09月06日
「あらゆる外交交渉は『密約』」、吉野文六元外務省アメリカ局長が「日米密約」を証言
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