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PJ: 高橋 清隆

知られざる職業人の世界(2) 心を撮り、出会いを演出する写真館
2009年07月09日 07:27 JST


「たなかや」を切り盛りする鈴木寄里枝さん。店頭の合格写真を前に(撮影:高橋清隆、3月30日) 

【PJニュース 2009年7月9日】 「もっと目を開いて。限界まで大きくして、こっちを見て」--暗幕の張られた撮影スタジオに、おかみさんの甲高い声が飛ぶ。証明写真を頼んだわたしは、普段使わない顔の筋肉に力を入れ、精いっぱい目を開く。男性のカメラマンが、その瞬間をとらえてシャッターを切る。照明を浴びたわたしの顔は、今にもつりそうだ。

ここは川崎市高津区にある「写真のたなかや」。盛んに指示を送っていたのは、鈴木寄里枝さん(63)である。わたしの家の近所にある写真館だが、これまで敬遠していた。

「合格写真」を宣伝文句にしているのが、引っかかっていたからである。お店の看板や電話帳広告には、「書類合格率90%の写真館として日本テレビ、フジテレビ、TBS、東京12ch、TVKが紹介」とあった。アナウンサーやキャビンアテンダントに、多数の採用実績があると書かれている。

そのため、わたしは証明写真が必要なときは、別の写真屋に行っていた。しかし3月半ば、壁にぶち当たった。生活習慣を改善するためバイトをしようと思ったが、どこへ応募しても断られる。同じ写真屋で取り直すが、仕上がった写真は髪が茶色に見えた。わたしは生粋の黒髪。店員に尋ねると、「これ以上黒くはなりません」との答え。写真館できちんと撮影してもらおうと思った。

ところが、電話帳やネットを見ても、近くに別の写真館は見当たらない。そのとき、ふと頭をよぎった。〈たなかやへ行ってみよう〉。宣伝に乗せられるのは性に合わないが、高い実績を残すのは、それなりの理由があるからに違いないと思い立ったからである。

写真館というと、家の一室をスタジオにしている印象があるが、「たなかや」は違っていた。旧大山街道を挟んで両側にビルがあり、貸衣装もやっている。教会風のブライダルスタジオもあり、人前結婚もできるらしい。本館2階の待合室には、ゆったりしたソファが設けられ、ヒーリング音楽や映像を流すモニター画面やスピーカーが備えてあった。

「高橋さん、中へどうぞ」

おかみさんの通る声で呼ばれ、スタジオに入る。と、わたしの体をなでるように見回す。

「そのチョッキは脱いだ方がいいわ。フレッシュな感じがなくなるから」

忠告は自信に満ちていた。幾多の経験が導いた結論なのだろう。茶髪写真で落ちたことを打ち明けると、意外な答えが返る。「たぶん、そのせいじゃないと思います」。そして冒頭のような3人での格闘に。お客である被写体のわたしが、店の人にあれこれ指図されるのは初めてだった。

撮影後、おかみさんに尋ねると、意図を明かしてくれた。

「わたしは心を撮りたかったの。心は目に出るもの。それを撮るには、お互いの協力が必要なんです」

なるほど、店頭に掲げられた「合格証明写真」は、どれも目が大きい。30分ほどしてできたわたしの写真は、別人のようだ。目が大きいだけで、何となく好感が持てる。不思議だ。

鈴木さんはかつて、自分の写真の威力を試す実験をしたそうだ。大学生だった娘さんの証明写真を撮ってテレビ局4社に応募したところ、数千倍の競争率の中、全社の書類審査に合格したとのこと。

「証明写真は1対1で初めて本人を見る機会。その意味で、すべてお見合い写真だと思っています」

先日もテレビ局の運転手に採用されたと、男性がお菓子を提げて礼に訪れたという。「合格の報告を聞くのが、何よりもうれしいです」。

鈴木さんが写真にかかわったのは、27歳のとき「たなかや」に嫁いでから。フィルムメーカー主催の講習会に通って技術を学んだ。独身時代は助産師として、生命の誕生に携わった。出会いに立ち会うのが鈴木さんの天職かもしれない。幸せの回想録を書くのが、将来の目標だという。

10日ほどたって、連敗中のわたしにバイトの採用通知が来た。よい出会いが演出されたことを悟った。【了】

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写真のたなかや
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