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PJ: 高橋 清隆

海にもまれ、夢を育てる若者たち=東京海洋大の乗船実習を追う(上)
2009年03月19日 08:14 JST


練習船「海王丸」での登檣礼(08年7月、提供:東京海洋大) 

大学生といえば、合コンとバイトに明け暮れているイメージがあるかもしれない。華やかなキャンパスライフは、多分にしてテレビや映画がつくったものだろう。海のエリートを養成する東京海洋大学(東京都港区、高井陸雄学長)では、通算1年も船で過ごす実習が行われている。航海士を目指す若者たちは、陸と離れた狭い空間で人知れぬ試練と大きな喜びを味わう。

実習を重視した「船長」養成教育を今に

 寄港地の港を出ようとする大型帆船では、白服姿の訓練生たちがマストを登り始める。きびきびとした動作で、4本のマストに組まれた帆桁(ほげた・ヤード)に散らばる。岸壁には、見送りに来た人たちが顔を上げている。空は強風で、白い作業服が旗とともにたなびく。号令とともに、若者たちの野太い声が一斉に響いた。「ごきげんよう」。

 ロープに足を掛けただけの練習生たちは、それぞれの手に帽子を持って岸壁に向かって振る。ビルほどの高さからの動作と声の演出は壮観である。「登檣礼(とうしょうれい)」というお別れのあいさつだ。専攻科での乗船実習のひとこまである。

 海洋工学部の前身である三菱商船学校は、1875(明治8)年に設立された。隅田川の永代橋下流に係留した成妙丸(せいみょうまる)が最初の校船だった。官立に移管した後、長らく「東京商船大学」の名称で、貿易立国日本を支える船乗りを多く輩出してきた。船での実習を重視した授業は、旧東京水産大学との統合で2003年に海の総合大学となった今も受け継がれている。

 東京海洋大学にはさまざまな乗船実習があるが、船長さんや運航行政マンの養成を目的とする海洋工学部海事システム工学科では、航海を通じて海事全般に関する知識を習得する。定員は65人の少数精鋭。航海実習は1、2年次が各1カ月。海技士の免許(航海)取得を目指す者は航海システムコースに進み、3年次に1カ月、4年次に3カ月の乗船実習をこなす。さらに卒業後、専攻科の乗船実習科に入り、6カ月の航海実習を経験する。免状の取得には1年以上の実習経験が必要だからだ。

大型帆船で運命共にして海外へ

 同大学は海洋調査や漁業船など、さまざまな実習船を持つが、船乗りを養成するこれらの実習には、国土交通省所管の独立行政法人航海訓練所の大型練習船が使われる。学部生は5000トンクラスの汽船だが、専攻科の乗船実習科では帆船「日本丸」「海王丸(かいおうまる)」などを用いる。

 行き先は学部生の場合、夏は北海道、冬は南の沖縄に向かう。国内ながら、外国の実習生と共に英語で授業も受ける。乗船実習科では、オーストラリアやハワイなど海外まで足を延ばす。普段は船を運航するための技術や法律、外国の資料や海図の読み方などを勉強しているが、これらが実際に試される機会だ。

 船の上では、さまざまなトラブルが想定される。それらに備えるのも、実習の重要な要素である。船には必ず救命艇が積んであるが、月に一度これを海に降ろす訓練が義務づけられている。火災訓練も同様だ。消防士と同じく、顔にマスクをし、ガスボンベを背負い、煙を立たせた船内で消火と救出に当たる。1カ月の航海ではナース(看護長)が乗船するが、半年間の実習には医師が乗る。プロの下で注射や縫合などの医療行為を学び、就職後は衛生管理者免許を取得し、船から医師と連絡を取りながら医療行為ができる。

 実習船に大学の教官は乗らない。指導に当たるのは訓練所の「オフィサー」(士官)である。船の航行や潮汐(ちょうせき・潮の満ち干のこと)の計算、天体観測などの実技のほか、船内教室での講義「座学」を受け、掃除も欠かさない。十数人単位の班に分かれ、4時間ずつの交代制で昼夜船の安全運航を確保する。部屋は6人前後の相部屋だ。

 次回、つらい乗船実習とこれを支える楽しみ、実習の意義についてお伝えする。【つづく】

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