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PJ: 高橋 清隆

国家の分断促す地方の反乱報道(中)
2009年03月11日 08:37 JST

(上)からのつづき。

問題のすり替えこそ、マスコミ報道の常とう

 中央政府に対する地方の反乱を伝える一連の報道は、地方に苦難をもたらした原因を伏せたまま、国内の対立をあおるものだ。負担金の支払いを渋る地方の首長はいずれも、自治体の財政状況が厳しいことを理由に挙げている。それもそのはず、地方交付税は昨年4月までに総額で5兆1000億円減らされた。ところが、マスコミはこの流れを不可逆的な正しい道と伝えるばかりで、多くの首長も否定できなくなっている。さらにこの窮地を国内対立に利用しているのだ。

 原因を伏せての対立あおりは、定額給付金についても同じだ。財政政策による景気対策として5日から一部の自治体で給付が始まったが、自治体の裁量によって格差が生まれるように設計されている。ホームレスを対象とするかどうかは居住地の認定をめぐる自治体の判断に委ねられているし、環境や福祉基金への寄付を募ることも認められている。支給日や額にも縛りはない。大都市ほど遅くなる見通しで、横浜市などは中田宏市長が「5月中旬以降」と明らかにしている。給付金1万2000円に割り増し分を加えた「プレミアム付き商品券」を発行する自治体もあり、最も多い所では67%を上乗せした2万円になる。ところが新聞は、この格差出現を1面まで使って問題にしている。「地方にももっと裁量を」と呼び掛けてきたのは、マスコミではなかったか。

 問題のすり替えは、マスコミ報道の常とうである。これまでも真相から目をそらす方法で事態の悪化を促してきた。例えば、農業の荒廃は食管法廃止に始まる自由化が原因だが、これに言及する代わりに創意工夫で乗り切る農家や集落を積極的に紹介してきた。農水省の後援を得て賞を設け、生産品の特化と大規模化を礼賛。その結果、食糧自給率の低下と離農に拍車を掛けてきた。

 マスコミはよく、「頑張る商店街」を紹介する。自治体と連携して割引券を発行したり、国からの支援を得て空き店舗を集会場やチャレンジショップに再整備したり──。一方で、根本原因である大店法の廃止に触れることはない。だから、シャッター通り化は進むばかりだ。

 「格差社会」の問題をよく取り上げるが、これを生み出した構造改革とデフレ下の緊縮財政の過失に触れることはない。もちろん、直接の原因である1999年の労働者派遣法改正にも。派遣業種が原則自由化されたことで派遣労働者の数が3倍以上に増えたのに。その一方で、「テント村」や「ワー・プア」の悲惨さを一生懸命に描く。NHKは正社員と契約・派遣社員との格差を追ったドキュメンタリー番組を放送することもあるが、原因に触れないので、情に訴えて全体の賃金水準を引き下げる効果しか持たない。

権力の意向をわざわざ教えてくれるマスコミ

 マスコミは権力にとって懸案の課題に焦点を当て、民の側から政策を後押しする。これは権力が子飼いの金融機関を使って、成長を期待する産業分野に資金供給するのと同じ図式だ。一方で規制の利権を脅かす開発にお金を出さないのと同様、支配に支障を来す事件や主張が報じられることはない。皆さんは構造改革が始まってから、郵政民営化や緊縮財政の誤りを指摘する学者や評論家がテレビに登場したのを見たことがあるだろうか。

 逆に、マスコミの伝える内容を見れば、権力が何をしたがっているのかが分かる。ソマリア沖の海賊事件をしつこく報じるのは、自衛隊をこの地域に出したいからである。過去の凶悪犯罪の被害者遺族が捜査の継続を訴える姿がにわかに露出するのは、時効を撤廃したいからにすぎない。被告が真犯人と思えないケースがあまりに多いが、とにかく日本人を処刑したいのだ。医療事故を大々的に取り上げるのは、医療訴訟を増やしたいからで、がん検診の重要性を訴えるのは、保険会社をもうけさせるためである。

 そして、中央政府による地方への「干渉」をはねつける今回の報道。マスメディアが反乱を伝えること自体、支配者が地方の独立を望んでいると理解すべきではないか。

すべての地方を支える絶妙な仕組み

 地方分権論者たちが理解しないのは、各地域は中央政府の下で相互補完関係にあって富むという真実である。総付加価値額の低い地域の住民が、それの高い東京都民と同じ車に乗り、同じ携帯を持ち、同じテレビ番組を見て笑えるのは、足りないものを互いに補い合っているからである。首都圏には多くの原材料や労働力が地方から供給され、代わりにその生産品や中央で徴収した国税の一部を地方に再分配している。

 「ダムや取水施設から恩恵を受けるべきは地元住民だ」と言わんばかりの報道が目立つが、発電所が立地する市町村とその周辺は電源三法によって国からさまざまな交付金や補助金がもたらされる。その原資の中核となる電源開発促進税は国税である。こうした制度によって電力の供給地・消費地ともに利益が得られ、互いに国家の発展に寄与することができる。別の地域は電力を提供していなくとも、例えばコメやマグロ、レタスなどの農林水産物あるいは観光サービス、事によると労働力を提供することによって日用品を安価で購入できる。

 自治体の財政が自前で賄えない場合は、不足の程度に応じて地方方交付税が埋め合わせてくれる。地方交付税は国税五税(所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税)の一定割合を財源としている。普通交付税の目的は、地方公共団体の財政の不均衡を調整し、どの地域に住む国民にも一定水準の行政サービスを提供できるよう財源を保証することである。もし共通の政府がなく、あらゆる投資が市場原理にのっとって行われるとすれば、資本は投資効果の高い順から投下されるため、人口集積の乏しい地域は飛行機にも電車にも乗用車にも乗れず、ガスも使えず、テレビも郵便も携帯電話の利用にもあずかれない事態が起きてくる。

 中央政府が再分配機能を果たすことは、国家意識の共有に不可欠である。これは単に、平均的な生活像が共有できるという理由だけではない。文化人類学者のマリノフスキーによれば、互酬性と並び象徴的交換の原型とされるのは首長を通じての再分配である。パプアニューギニアの島々にはこの形式の交換が残っており、集団の構成員が収穫物を手に入れたときはいったん首長に預け、その後で各人に配られる。これは社会的な紐帯(ちゅうたい)を強める重要な儀礼であり、近代国家でも政府機関が国土の隅々まで網羅した再分配を展開することで、われわれは自分の所属する国を自然に意識できるのではないだろうか。【つづく】

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