PJ: 高橋 清隆
国家の分断促す地方の反乱報道(上)
2009年03月10日 13:37 JST
このところ、政府と都道府県との関係に疑問を投げ掛ける報道が相次いでいる。直轄事業の負担金の支払いを渋る知事を祭り上げ、自治体が「地方政府」として独自の振る舞に及ぶのを暗に礼賛する。これらの報道には、100年以上わが国の発展を支えてきた霞ヶ関と地方行政機関とのよき関係を壊し、国家解体を促す意図が露骨に見える。
「反逆首長」を英雄視し、直轄事業を止める
国が主体となって行う直轄事業を進めるに当たっては、地元の自治体も3分の1を負担金として支出してきた。これに異議を唱(とな)える地方公共団体などなかった。中央あってこその地方だからである。1990年代にどこかから持ち込まれた地方分権の流行に同調する形で、本当に支払いを拒む「反逆首長」が出てきた。
2月12日、新潟県の泉田裕彦知事が北陸新幹線の負担金の一部支払いに難色を示したことがNHKのお昼のニュースのトップで伝えられ、全マスコミが続いた。これは長野−金沢間の建設費が資材の高騰や軟弱地盤対策のため総額で約2200億円増えたのに伴い、沿線自治体の1つである同県が約220億円の負担増を求められたもの。泉田知事は平成21年度予算案にこれを盛り込まない考えを示した。
2月15日には、福岡県の麻生渡知事が九州新幹線鹿児島ルート(博多−新八代間)の建設負担金の増額に反対表明したとの記事が各紙に躍った。すでに反対を表明していた佐賀県の古川康、熊本県の浦島郁夫両知事との連携に加わるものだが、大手紙は「全国知事会長でもある麻生知事が、当初予算案への計上を見送る形で国直轄事業の地方負担に異議を唱えたことは、ほかの自治体にも影響を与えそうだ」(毎日新聞)などと反乱の拡大を促している。
負担拒否の第1号は、大阪府の橋本徹知事である。2月上旬、関西空港の連絡橋道路の国有化にかかる負担金7億円を新年度予算案に計上したい方針を示した。関空会社の財務構造の改善策を国に示すよう要求していて、「国への支払いは国が義務を果たしてからだ」と述べている。関空2期島の護岸工事の負担金5億7000万円も留保している。これらは各マスコミが盛んに報じてきた。
直轄事業への負担金を普通に払う場合はマスコミに取り上げられることはなく、こうしたわずかな反抗事例だけ大々的に扱われる。「ほかの自治体にも影響を与えそうだ」などの修辞法を見ても分かる通り、これらはほかのニュース同様、プロパガンダである。
報道は世論形成に影響を与えるが、それ以上に口実づくりとして効果的に使われる。3月1日のNHK「ニュース7」は、負担金制度の見直しに向け国土交通省が全国知事会と協議の場を設けると表明したニュースを伝えた。「財政難に苦しむ自治体から負担金制度の見直しを求める声が高まっています。このため国土交通省は…」と続ける。特異な例を一般化して大きな圧力にするとともに、どれだけ本気か分からない国交省のコメントを固定化する働きがある。
アンケートもプロパガンダである。同日夜、NHKは負担金について全国の都道府県知事と政令指定都市の市長に行ったアンケート調査を報じた。70パーセント強に当たる46人の知事と市長が負担金によって地方財政が圧迫されているなどの弊害が出ているとする結果を紹介。「首長は国に対して言うべきは言う、腰の据わった対応が必要だ」とする片山義博前鳥取県知事のコメントを添え、「国交省が見直しに向けた検討を進めることになっています」と結んだ。大衆に国への嫌悪感を抱かせるとともに、国交省が後に引けないようにしたい意図が見てとれる。
中央と地方、地域間の対立こそ狙い
マスコミが喧伝(けんでん)する中央への抵抗は、地方の負担金拒否だけではない。国交省が富山県黒部市にある宇奈月ダム(直轄)を使用する関西電力(大阪市)から5年間に約21万円の余分な負担金を徴収していたことが分かり、2月28日に各マスコミが一斉に報じた。同省はミスを認め同社に謝罪し、全額を返還する意向を示しているし、額も少ない。
マスコミによる国家の分断促進報道は、中央政府への攻撃だけではない。2月27日、JR東日本の信濃川発電所(新潟県小千谷市・十日町市)がデータを改ざんして水を取りすぎていたとして、国交省北陸地方整備局は水利権取り消し処分を3月10日すぎにも通知する方針を示した。JR東日本は同日、地元の漁協と「信濃川をよみがえらせる会」を回って謝罪し、処分を受け入れる考えを示している。
この「問題」はもともと、中央と地方の対立の象徴として改革中毒者たちに注目されてきた。日本一の大河信濃川はこの発電所で大量取水されるため、ここから下流10キロはほとんど水が流れていない。新潟県は首都圏JRの約4割の電力を賄う。送電が中断すれば、山手線も止まるといわれている。地元紙「新潟日報」は早くからこの事態を紹介してきており、市民団体の活動も多くのメディアが取り上げてきた。
河川法では水利権を持っている者同士の水の融通は認めており、経済的な損失は互いに調整し合うのが普通。取り消し処分は異例である。北陸地方整備局の職員によれば、JR東日本の取水に反対する市民団体には、東京在住者がいるとのこと。「一体、どうしたいんだろう」と首をかしげていた。わたしに見える答えは一つ。各地域を対立関係に持ち込むことだ。本人が意識しているかどうか分からないが、わが国の分断を画策する勢力に乗せられていることは間違いない。
外圧の意志を内面化するマスコミ
夕張市の破たんを受けて2007年に発足した地方分権改革推進委員会(座長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は同年11月に自治体を自立した「地方政府」にすると宣言している。道州制に向けた動きも活発で、政府の道州制ビジョン懇談会(座長・江口克彦PHP総合研究所社長)は昨年3月、課税自主権や立法権を持った「地域主権型道州制」を11年までに導入することを求める中間報告を提出している。
そもそも、夕張市の破たんは「骨太の方針」に明記された「三位一体の改革」の結果であり、地方分権委は竹中平蔵元総務相が退任前に発足させた「新しい地方財政再生制度研究会」の報告を踏襲したもの。「骨太の方針」を策定する経済財政諮問会議は民間メンバーが4割以上を占め、郵政事業や道路公団の民営化、国際会計基準の導入など、米国の要望を盛り込んできた。竹中氏はこれを実現した中心人物であり、この場に及んでも「郵貯資金や年金基金を米国ドル救済に活用せよ」などと公言している。
マスコミが外圧という最も大きな権力の手先として国内の保守勢力をたたくのは、賢明な読者ならご承知だろう。これまで一貫して「物言う知事」を英雄扱いし、タレント知事を頻繁に登場させてきた。現在、中央に盾突く知事を礼賛するのも、この延長線上にあると見るべきではあるまいか。その方向性は、強大な権力が求める線に沿う。疑似環境が現実環境をつくり出すことは知られている。少数の反逆事例を朝昼晩と報じているうち、NHKのアンケート結果のようになったし、国会で直轄事業の見直し検討まで約束させられるに至った。そのころには大衆も「当然なんじゃない」と急変している。これがマスコミの本質的な役割である。【つづく】
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