PJ: 高橋 清隆
急増する左翼報道のたくらみ(上)
2009年01月08日 07:15 JST
このところ、左翼報道が盛んだ。昨年は『蟹工船』ブームや共産党の躍進を伝えるニュースをはじめ、全共闘運動の回顧やマルクス思想への再考を促す企画が多く見られた。「ワー・プア」が増加する中で一見胸のすく動きだが、地獄をたぐり寄せている気がしてならない。
不自然な『蟹工船』ブーム
『蟹工船』は2008年発売分の新潮文庫版だけで56万部が売れたという。これは平年の130倍強の数である。これにつられるかのように日本共産党への入党も増えており、およそ1年間に1万4000人の党員が増えた。1990年以降減る一方だった党員数が反転。申し込み数は倍増した。最近出版された的場昭弘著「超訳『資本論』」(祥伝社)は5万部も売り上げている。
これらの奇異な現象はマスメディアで逐一報じられてきた。共産党員増加の背景には、低賃金で働く若者の増加や格差拡大があるなどの理由も添えられている。しかし、ブームに火が付いたのは、マスコミ界の全面的な後押しがあったからではないか。非正規雇用が5年間増加傾向にあるからといって、大資本が支配する出版界で、本が突然130倍も売れるはずがない。
『蟹工船』ブームのきっかけは、2008年1月に毎日新聞が作家による対談を載せたこと。読売新聞は5月初旬、同書の売り上げが5倍増えていることを写真入りで報じると、2カ月後に「売り上げ70倍」の記事を載せた。こうした記事が宣伝効果をもたらす。新潮社は昨年「読売出版広告賞」を受賞したが、これは大規模な広告戦略を打ったことをうかがわせる。都内の大型書店には同書が平積みされ、他社版やDVDなども置く専用コーナーが設けられた。漫画版も刷られ、夏前には文芸誌が評論家の対談を載せている。
共産党と全共闘を礼賛し始めたマスコミ
共産党の躍進をあおる情報も目に付く。極端な体制迎合が特徴のインターネット新聞『J-CASTニュース』は7月に入党増加を伝え、8月には毎日新聞が「不破のマルクスざんまい」と題する編集委員の大きなコラムエッセーを載せた。いずれも従来見られなかった、同党へ好意的なものである。「ユーチューブ」や「ニコニコ動画」にアップされた志位和夫委員長の国会質問の動画は、アクセス数が36万回に達した。党員増加は、反共に熱心だった産経新聞を含む各紙が伝えたが、こうした情報はさらなる増加をもたらしているはずである。
そもそもマスメディアは情報による支配装置だから、そこに出る内容は支配者の意志とみなすべきである。プロレタリア文学の再興や共産党の躍進は、それ自体が宣伝ではないのか。漁師や派遣労働者のデモを紹介する報道は、この解釈を補強する。起訴休職中の外務官・佐藤優氏著『わたしのマルクス』が新聞や雑誌で頻繁に取り上げられているのは、左翼思想を復活させたい意図をうかがわせる。
全共闘運動を振り返るメディアの動きも目立つ。昨年、東大の五月祭で安田攻防戦の写真展を開催したことが、NHKの『ニュースウオッチ9』で特集された。これは単なる懐古趣味だろうか。駒場祭でも東大闘争についての座談会が開かれたし、2007年10月にNHKのBSで日大全共闘の元闘士らをスタジオに招いての番組が放送された。バリケード封鎖や大衆団交の場面を、映像と証言で紹介した。昨年9月には日大闘争の経緯をまとめた伝説の書『反逆のバリケード』の復刻版が大手出版社から出た。
マスメディアが情報を支配する現代にあっては、ブームなどすべてつくられたものである。メディアを横断した左翼情報の急増は、権力者が仕組んだものとしか思えない。
この傾向は、国内にとどまらない。ドイツのシュタインブリュック財務相は「マルクス理論の一部はそれほど悪いものではないと認めざるを得ない」と『ニューズウイーク』誌で発言している。英国教会の最高指導者、カンタベリー大主教は英保守系雑誌『スペクテーター』に「マルクスの資本主義論は部分的に正しかった」との評論を寄稿した。
気付くべきは、これらの宣伝が日本人向けに発信されている点だ。ドイツ財務相の発言は日本版に載り、大主教の論評は毎日新聞で報じられている。わが国で新自由主義経済の急先鋒(せんぽう)だった学者が資本主義の限界を唱(とな)える本を上梓(じょうし)したことと考え合わせると興味深い。【つづく】
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