PJ: 高橋 清隆
絵が連れてった
2008年12月20日 08:35 JST

木村定男 作『冬の飯山線』 
11月中旬、長野県の野沢温泉への旅行をキャンセルした。一緒に行く予定だった後輩が仕事を休めなくなった。同僚の身内にご不幸があったらしい。晩秋の信濃路を1人でも楽しみたいと取り消さずにいたが、当日の朝になって断念した。旅行の計画はたまった仕事を片付けるきっかけを与えてくれたが、慣れない連夜の奮闘で風邪気味になる。「山沿いでは雪」との天気予報がとどめを刺した。
野沢温泉付近には、大好きな場所がある。千曲川は西大滝ダムに湛水(たんすい)するあたりで大きな湾曲を描き、この外側をJR飯山線が走る。曲がりきる手前、左岸の飯山市側から上流を望むと、自分が水面の上を飛んでいるかのような錯覚に陥る。
この秘密の名所を教えてくれたのは、中学生の絵だ。北陸で広報誌の編集をしていたわたしは、子供たちの絵をよく選んだ。この場所を描いた絵は、最も心に響く作品だった。以来、脱サラするまで、行き詰まるとここへ足を運んだ。
上京してわたしを癒やす場となったのは、鎌倉である。ドリームズ・カム・トゥルーのプロモーションビデオ『きみにしか聞こえない』に素敵な街並みが出てくる。調べて行ってみたいと思っていた矢先、仕事で鎌倉を訪れ、ここだと分かった。『連れてって 連れてって』が売れている彼らだが、風景への愛着が導いてくれたと感じた。
何度か鎌倉に足を運んでいたら、はっとする絵と出会う。木村定男(きむら・さだお)という人が書いた江ノ電の水彩画で、絵はがきになっていた。先の中学生の絵と同じような繊細な筆遣いは、わたしが理想とするものである。当の画家は7年前に他界しており、入荷もなくなっていた。
体調の回復したわたしは翌週、野沢の代わりに鎌倉を日帰り旅行することにした。木村画伯の絵はがきがまだ残っているというお店を探し出していた。
「電話された方ですか。うちは木村さんの珍しいカードもあるんですよ」
回転棚には江ノ電の絵はがきセットのほか、小田急や横浜のヨットハーバーを描いたはがきも。丹念に見ていくと、見覚えのある風景が目に飛び込む。飯山線を走るSL列車である。線路の下には、野沢温泉村境の千曲川が。見るはずだった雪化粧をして。【了】
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