PJ: 高橋 清隆
鎌倉市で市民が医療保険制度の行方を憂えた 『シッコ』上映と講演会が開催される
2008年02月17日 16:15 JST

日本の医療について講演する神奈川県医師会の池川明理事(撮影:高橋清隆、2月16日) 
神奈川・鎌倉市医師会と鎌倉・映画を観(み)る会は16日、マイケル・ムーア監督の医療ドキュメンタリー『シッコ』の上映会を鎌倉市の生涯学習センターで開いた。午後には医療問題についての講演も行われ、市内外から来た延べ300人が医療保険制度改革の行方に不安を募らせていた。
鎌倉・映画を観る会は20年以上にわたり自主上映会を続けている。米国を模範とした医療保険制度改革が進む中、「1人でも多くの人に現状を知ってもらい、考えるきっかけになれば」(「観る会」の飯島和夫代表)と、今回は医療をテーマに市医師会との共催で企画した。
「シッコ(SiCKO)」とは、米の俗語で「病気」の意。保険業界が支配する米国の医療現場の病んだ状況をえぐり出した作品で、理不尽にさらされた患者たちが登場する。夫が心臓発作を起こし、妻がガンを患った50代の夫婦は家を売り払い、娘夫婦の地下室に引っ越す。加入していたHMO(健康維持機構)の保険はクオリティーが低く、自己負担額を払えなくなったからである。
79歳でありながら、毎日スーパーでくたくたになるまで働く男性。会社を辞めて福利厚生の一部である保険を失えば、薬代が払えないからである。それだけのために、彼は死ぬまで働かなくてはならない。
発作を起こした子供が救急車で病院をたらい回しにされた揚げ句に死亡。後日、母親が保険会社に電話したら「事前に電話を」と言われ、怒りのやり場もない。「やせすぎ」「太りすぎ」を理由に保険への加入を断られたり、医者がガンと診断したのに「あなたの年齢でガンはあり得ない」と保険会社が認めなかったり。
納めさせるだけで支払いを認めない米国の保険。この笑えない現状に心を痛めている保険会社の女性社員もいて、してきたことを涙ながら告白する。医療費のかかる患者を診ない医師は、民間保険会社から報奨金を支給される。米国で「偉い医者」とは、医療を拒む医者のことである。
利益率アップを目標にする保険会社は、保険金を払わないために「ヒットマン」を雇う。彼は、保険金を請求する加入者があると書類の不備を徹底的に探し出す。契約時に書かれていない過去の既往症を見つけ出すために奔走(ほんそう)。もしなくても、奥の手が。「加入前に十分な診断を受けなかっただろ」とすごむ。
映画では、米国の保険制度が悪化した事情にも触れている。ニクソン政権時の1971年、保険会社がもうけるために民間保険の適用を提唱し、政治家に高額の献金を行った。公的医療保険制度の導入は官僚的で社会主義への道であるとキャンペーンを張る。国民皆保険制度を提唱したヒラリー・クリントンは結局保険会社からの献金で態度を翻す。
ムーアはカナダやイギリス、フランスにも飛び、医療の現状を伝える。いずれの国も基本的に国が主体となった公的医療保険が行き渡っているのを知り、驚く。米国のメディアはフランスのことを悪く言うが、恐怖で国民を押さえ付けているのは、米国の方だったと。
医療保険に入ってないために、病院から文字通り捨てられる婦人。一流大学の病院が貧民街に車を手配し、胸や頭の骨が折れたまま泣いている女性を降ろしてくる。
ムーアの元には、見捨てられた患者たちが集まった。911テロで救出活動をした元消防士も。ツインタワーから遺体を運び続けた勇敢な彼女は、今もせきが止まらない。職場は解雇され、診察も受けられないまま。一同、ボートに乗ってキューバへ。「悪の国」と宣伝されていた同国民は皆優しく、ハバナ病院では、無料で診察してくれた。どんな人間も公平に扱うことが彼らの使命である。料金のことを心配して執拗(しつよう)に訪ねる女性の目から、しまいに涙が。「今まで、辛い目にばかり遭わされてきたので、どうしても信じることができなくて」。
米国では、毎年1万8000人が治療を受けられずに死んでいく。この狂った状況は、われわれにとって対岸の火事ではないはずである。人間の尊厳や、国とは何かについて考えさせる重い映画の内容に、最後まで席を立つ人はいなかった。
チラシを見て横浜市から来たという男性は、「小泉政権以来、政府の政策が米国流になってきていることが気になる。日本の将来はまさにバック・トゥー・ザ・フューチャーである」と心配する。
市内から来た70代の女性は「老齢者の保険料も上がると聞いています。でも健康保険があるので、夫婦共に大変助かっています。アメリカに生まれないでよかった」と複雑な心境を吐露していた。
講演会では、神奈川県医師会の池川明理事が「これからの日本の社会保障、特に医療について」と題し、1時間程話した。公的医療保険制度の歴史を紹介し、小泉内閣が改革に掲げた「自己責任」論が歴史を巻き戻すものだと批判した。その上で、医療訴訟や一部の身勝手な患者が医療崩壊に拍車をかけていることを指摘。診療報酬改定の度「医者は給料が高すぎる」と喧伝(けんでん)するマスコミ情報に警告を促し、医療の水準は医療費に応じて決まる事情に理解を求めた。【了】
■関連情報
映画『シッコSiCKO』公式サイト
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