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PJ: 池野 徹

「田んぼ」が見せてくれた人と自然のドラマ。
2009年09月09日 06:50 JST


"Scene of Aono Mobara Chiba Japan" (撮影:池野 徹、9月2日) 

【PJニュース 2009年9月9日】今年の夏は、いつもの夏と違う夏の様子であった。つまり日照時間が少なく、暑さの期間が短い夏と感じられたのは事実である。この4月の末、都会から田舎へ越して来たものにとっては、環境が変わったから、ひと味違う夏と思うのは、なおさら当然のことだった。しかし、JRの駅を降りて、一日に数少ないバスに乗りわが家への道すがら、まさに両サイド田んぼの道を走って行くと、水田が広がり、田植えされた緑の苗稲が吹き抜ける風に揺れて、水面(みなも)に細かい波形がみえて美しい水田風景を見せていた。所々にある樹々の林が、水田に映り込み、陽陰った夜景に近いときは、ヴェニスの光景にも似た思いがしたのだった。

田植え風景は見過ごしたが、水の張られた水田は、つまりこれが稲作、お米の育つ土地と言う事が、全く忘れていた記憶の中へ呼び出されたのだった。幼き頃、新潟の田舎で育ったものにとっては、懐かしい還元風景だった。日本人の主食である米の原点の田園風景は、こんなに新鮮で美しさと、広がりと言うか、大きなゆったりした空間として感じられたのだった。

そして、日が経つにつれて、小さな苗稲が、点として成長して、面として緑の色が、少しずつ増して、鮮やかな深緑に変わって行く様は、眼に見えて解るので、田んぼの道すがらその変化が楽しさを持って見えて来たのだった。やがて、完全なグリーンになり、野球やゴルフのグリーンベルトの数倍の広がりを見ることができたのである。稲と稲の間の水の部分がなくなり稲の高さも成長して、緑の草原になった。これは、全く都会では味わえない風景だ。風とともに流れる空気が、染み入って何とも快感を感じる。排気ガスによる温暖化などみじんも感じられない。それが嬉しく、誇らしく感じられるほどであった。

やがて、7月の声を聞き始めると緑の一面が変化を始める。黄味が増し始めて黄緑に少しずつ変化して行く。そして、米の穂が膨らみ始め、少しずつ頭を垂れ始めだした。陽射しに反映した黄緑は独特の米の香りを吹き出し始めていた。日照りが弱い中で雨が多い。風が吹くと、稲穂は畑の中を風の動く通りにその形を変える。それはまさに、海面の波のごとくである。稲穂の上でサーフィンが出来るほどの感じである。

田んぼを撮影していると、持ち主の農家の主人が現れた。畑の四隅にブルーの旗が立っているので聞くと、害虫駆除のための薬剤を撒くのに、ラジオコントロールの模型の小型ヘリコプターを使うそうだが、その目印との事だった。なんか、案山子(かかし)のいる田んぼと言う予想は見事に覆された。田んぼの側溝に水の流れのせせらぎがある。田んぼの水を引き込むのが仕事のうちでは一番大変なのだそうだ。今はちょうど、「中干し」といって、一度水を引いているのだと言った。そしてもう一度水を入れる。水の流れに朱色の鮮やかなモノが着いているので聞くと、タニシの卵で、これを退治するのだそうだ。

ドジョウもいるが少なく、時折見かけるのだが、エサ狙いの白いサギが畑のど真ん中にいるのは、優雅に見える。稲刈りはと聞くと、8月の末だと言う。えっ秋ではないのだ。稲刈りは大変でしょうと言うと、「いや、コンバインという自脱穀機を運転するだけさ。昔は女房も大変だったが、今は、家で昼寝タバコスパスパだよ」と笑っていた。農家も、田植えも、稲借りもマシンによる自動化なのだ。過疎化した農家に、跡取りも減り、それを補うには、マシンのパワーが不可欠だと言う。人を動員しての田植え風景は過去のものとなって来てるのだ。知らない都会人は単純に、農家は大変と思っていたのだけれど。

やがて8月の蝉の喧騒の中に、一面の黄金色の広がりの果てに、一発台風がやって来た。その去った後に稲穂の海原を見に行くと、その台風の爪痕(つめあと)がくっきりと稲穂の風に倒されて風の道が稲穂にできていた。こんなにダメージを受けた黄金の稲穂はどうなるのだろうか。その光景が珍しく写真に撮ったりしたが、稲穂の米の身になると、痛ましい感じが拭えなかった。

しかし、徐々にコンバインマシンで稲穂は刈り取られ、そのトラクターの痕跡と土気色の一面が広がっているのを見ると、4月から見ていた数ヶ月の間に、点から面へ、緑から黄緑へ、黄金色から土気色へとその広大な田んぼは、変化を見せたのだった。この5ヶ月の自然の流れは、改めて、日本の主役「米」へのいとおしさと、そのシーンの映像の変化に、日本の原風景としての田舎を満喫させるものがあった。
千葉県茂原市粟生野にて。

「日本人は、米を食って生きる。その証明を自然が見せてくれる。」

【了】

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PJ 記者