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PJ: 葦乃原 光晴

大不況の不安(下)=経営者の場合
2009年02月06日 09:26 JST

(上)からのつづき

 リストラされた者が会社の経営者に言いたいのは、「会社を守るために俺たちを切り捨てるのだろう」という気持ちだ。経営者は世界や日本の幸せより、社員の幸せより、まずは自分の会社の幸せが最優先だ。しかし、わたしをリストラした経営者は、「リストラはつらい」と言った。

 リストラされてから経営者と話す機会があったが、わたしの状態を「うらやましい」と言った。人をリストラしておいて何を言うかという気持ちになったが、しかし、世界的な不況が急激に進んだ結果、リストラ以外に会社が生き残る手段が無かったことを考えると、わたしをリストラしたことについて経営者を責める気持ちは、それほど強くなかった。

 「うらやましい」という意味は、わたしの場合、独身で転職先さえ見つかれば問題が解決する気楽さがあるが、経営者はそうはいかないということを言いたかったのだ。

 不動産業界は、4年前はミニバブル状態だったが、3年前にはバブルのはじける時期がささやかれ、2年前にバブルがはじけたらしく仕事が急に減り始めた。さらに昨年の1月には、「今年は業界で淘汰(とうた)が始まる」と噂されていた。業界では景気悪化のスピードが速く、「毎月ひどくなる」と言われていたが、4月ごろはもっとひどくて、「毎週ひどくなる」に変わっていた。そして8月に米国発の金融危機が起きて、不動産業界だけでなくすべてが総崩れ状態になった。

 経営者は会社の業績を伸ばそうとしていた。社員の雇用も守ろうとしていた。本業以外の新規事業も模索していた。しかし、景気悪化のスピードが速すぎて間に合わず、会社を守るために社員をリストラした。だが、リストラしても経営が苦しい場合はどうするか。最小限の社員を残しておかないと会社が運営できないので、その分の給料は払わないといけない。事務所経費もかかる。仕事が先細りで収入より支出が大きければ手を打たないと破たんするが、リストラの次の手は難しい。

 経営者はわたしに、「新規事業を起こすが一緒にやらないか」と話した。わたしがリストラになるとき、会社で新規事業を始めるときは声を掛けると話してくれていたので、今回、声が掛かった。しかし本来この仕事は、わたしがやるのなら社員の時に会社の指示に従って始めるべきことだ。景気悪化のスピードが速すぎて手が回らなかったのだ。

 新規事業が軌道に乗れば会社も助かるし、わたしもポストを与えられて会社に復帰できる。しかし軌道に乗らなければ、会社は別の方法を模索して、わたしも別の仕事を探さなければならない。しかも、わたしが新規事業に携わっている時は無給だ。今のわたしに、今から新規事業を始めて軌道に乗せる自信も余裕もなかったので辞退した。

 経営者は高い収入を得る代わりに解決すべき課題も多くて大きい。会社経営が順調なときは地位も金もあるが、会社がつぶれれば中小企業経営者の多くは負債を抱える。取引先にも迷惑をかける。経営者にも家族がいるから、家族も困る。社員に比べて不安の種はずっと多い。

 規模が小さくても会社を経営するのは大変だろう。業績が順調な会社はいいが、そうでない会社の経営者は、この大不況の荒波をどう乗り越えようかと日夜悩んでいることだろう。荒波を乗り越える能力があるからこそ経営者でいられるのだろうが、果たして、百年に一度の大波の場合はどうか。

 不安の大きさは、守ろうとする対象の大きさに比例するのではないか。わたしは自分の生活だけ心配すればいいが、経営者は、会社の利益、社員の処遇、社会的責任、自分の家族などなど、不安の数と大きさはわたしの何倍にもなる。今となっては経営者の不安は他人事だが、振り返ってわたし自身を考えてみると、少し気が楽になった。【了】

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