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PJ: 今藤 泰資

北信花紀行(4=完) 花は花でも小布施の花は…
2009年05月11日 06:42 JST


セーラさんとご主人のジョセフさん。わたしの旅の終わりに、異土に生まれた大輪の花が、さらなる光を増してこの小布施に生きつづけることを確認できて幸いであった。花は花でも小布施の花は、セーラ・マリ・カミングスであったということだ(5日午後9時撮影:今藤泰資) 

信州大好き人間のわたしだ、善光寺にはもう結構なくらいお参りしてきた。連休とETC割引が重なったこの時期、あまり行きたくなかったが、御開帳を楽しみに来た友人、「この機会、ぜひ行きたい」という。牛ならぬ「人に引かれて」出掛けることにした。御開帳とは、7年に一度、秘仏である御本尊の身代わりとして同じお姿の「前立本尊」を特別に拝観することだそうだ。本来信仰心を持たない身には、ご利益のあろうはずもないが、この時期長野に居て、お参りせぬ手はない。混雑を多少なりとも避けるため小布施にクルマを置き、電車で行くことにした。小布施在住の親友関悦子さんは「今藤さん、ここから長野まで御開帳にあわせてシャトルバスが出ているよ」とすすめるが、電車に乗りたかったので小布施駅へと向かう。

 長野電鉄長野線は、長野から北信の温泉街湯田中を結ぶ私鉄路線である。過去一度も利用したことがない自称「小布施研究家」のわたしだったが、小布施〜善光寺下という駅まで約16キロと意外に短い距離に驚いた。それにしても、特急「ゆけむり号」で30分少々、運賃680円(内特急料金100円)はちと高い。入線してきた特急の車両に見覚えがある。元は小田急のロマンスカーとして活躍した車両を再活用しているのだ。ここでも鉄道ファンがデジカメ片手に大忙し。連休さなかの「子どもの日」とあって、電車は家族連れで満員だ。両側の車窓に連面と広がるのは、リンゴ畑である。

 善光寺下駅から善光寺まで徒歩10分というが、かなりの急こう配を歩く。途中からにわかに人ごみが増え、またたく間に大群衆の一人となっての参拝だ。参拝客が二列に分かれて歩くのは、本堂に入って「前立本尊」を直接拝観する人と、わたしたちのように金網越しに拝む人に別れるからだ。今どきの仏様は現金商売、ご利益の多寡も出すもので決まるらしい。今年の正月は浅草の浅草寺に参拝したが、混雑はまったく同じ。警備の警察官や、警備会社の方々の労苦は仏様がねぎらって下さることだろう。

 5月5日を狙って小布施に来たのは、前にも書いたが月例のオブセッション(Obusession:小布施ッション)に出席するためである。小布施町代表するオピニオンリーダーの市村次夫さん(枡一酒造場、小布施堂社長)は、「小布施という信州の小さな町で、地域とともに刺激を受け、与えあうもの、それが私たちのめざす文化事業ではないか。そう考えつづけてきた線上に、セーラ・マリ・カミングスという台風のような人材が90年代に登場しました。かつてのスケッチから【Obsession】を掘り起こした彼女は、そこから独自のアイデアを膨らませ、21世紀の始まりの年にObusession(小布施ッション)が、ついに命をもって動き出すことになりました」と説明している。

 市村さんは、小布施の豪商・高井鴻山の末裔である。葛飾北斎を厚遇し、内外の知己を小布施に集め、それが今ある小布施を形成してきたのだ。セーラという金髪碧眼の異国人が、活躍するのも小布施なれではのこと。講演会に続く懇親会には枡一直営の「蔵部」で提供される寄り付き料理。さらに出来たての日本酒「ヘキイケン」やビールが飲み放題でなんと5千円なのである。全11品もあるメニューの一部を紹介すれば、「アサリのバター蒸し」「桜海老のかき揚げ」「穴子の揚げ浸し」「烏賊のバジルソースあえ」「伊勢海老の具足煮」などなど、まあ大した献立ではある。大食漢のわたしもさすがに箸の手を休めたものである。

 期待していたこの日の講師は、都内某私立大学の有名教授Y氏。本人の説明によれば、関東経済局(経済産業省本体ではない)の中小企業政策にかかわっているとのふれこみだったが、講演は予想外に面白くない。メディア露出度は高いことで知られているこの先生、マクロ経済はともかく、ミクロ経済が全く分かっていないのだ。中小企業支援であればわたしは専門家。奇奇怪怪の解説に、質問したが答えになってない。その上、自らが運営する情報ネットに加盟しなければ中小企業はダメになるぞと断定的。代表的著書に「聞かせる技術」とあったが、本の題名を変えた方がよさそうに思えた。

 講演会も懇親会も、司会はすべてセーラさんである。枡一の分厚い半被(はっぴ)をまとって登場したが、そこで意外な話を披露した。「ワタシの赤ちゃん、男の子でした。今日は子どもの日ですよね、だから発表しました」と嬉しそうに報告したのである。一瞬の間を置いて、会場から大きな拍手が沸いた。セーラさんは頬を赤らめながら、何度もお辞儀をした。その目にうっすら光るものが見えた。ニューベビーの予定日は9月の6日だそうだ。セーラさんのご主人は、声楽家のジョーことジョセフ・スティブルズさん。初産のセーラさんを思いやる気持ちが伝わってくる好人物である。北信花紀行の終わりに、異土に生まれた大輪の花が、さらなる光を増してこの小布施に生きつづけることを確認できて幸いであった。花は花でも小布施の花は、セーラ・マリ・カミングスその人であったのだ。

 2泊3日の小さな旅。自宅に帰ったら、巣籠(ご)もり中だったキジバトの雛は巣立っていた。庭の「ウノハナ」も、紫色の「テッセン」も満開であった。間もなく夏…。季節の流れは誠に速いものである。【了】

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