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PJ: 今藤 泰資

北信花紀行(3) 菜の花村に出現した「ガートラ」!の正体は?
2009年05月10日 07:53 JST


。「ガートラ」とは、ガーデントラクターの意味で、北信特有の表現らしい。なんとも可愛らしい呼び名だ。そのガートラが、広大な菜の花畑を、ガタゴトバタバタ、数名の客を乗せて目の前を通りすぎる。元気そうな若者の一人が、わたしたちに指2本を差し出し、「200円ですよ」と笑顔を投げかける。猛々しい青年を見ることの多い昨今、平和な表情の青年の姿がまぶしく、美しい。花の強さはその優しさにあるのかも知れない(5日撮影:今藤泰資) 

斑尾高原から、つづら折りの道を降って千曲川河岸にある菜の花村へ向かう。途上、車窓に移り変わる光景は、春から夏への移ろいを意味し、いやがうえにも心が躍る。程なく千曲川河畔を菜の花に包まれて走る。当地の地域情報サイトによると、「千曲川・花の里山風景街道は、現在国土交通省が進めている日本風景街道の候補に名乗り上げ、地域の人たちの手で街道沿いを花で埋めつくし、ふるさとの原風景を守りたいと、20年ほど前から住民らによりフラワーロードに取り組んで来た」とある。

 国土交通省が推進する各地の「道の駅」の中でも、ここは「花の駅千曲川」。雪国の小京都「いいやま」はもちろん、周辺市町村の観光情報もわかる情報コーナーを完備し、紫米や笹すし、地酒などの特産品が揃(そろ)う物産コーナー、地元で採れた農産物が気軽に手に入る直売所を自慢する。国道117号線沿いに流れる千曲川の中間点にあり、景観条例のおかげで、大きな看板表示がなく周辺の景色は抜群だ。

 クルマを降り、早速千曲川畔の「菜の花村」へ出掛ける。テントを張った臨時の売店に「ガートラ200円」とある。はて、ガートラってなんだ…? 昨年5月、この付近で菜の花を楽しんだのは、もう少し山手だったから、「ガートラ」のことは知らなかった。「ガートラ」とは、ガーデントラクターの意味で、北信特有の表現らしい。なんとも可愛(かわい)らしい呼び名だ。そのガートラが、広大な菜の花畑を、ガタゴトバタバタ、数名の客を乗せて目の前を通りすぎる。元気そうな若者の一人が、わたしたちに指2本を差し出し、「200円ですよ」と笑顔を投げかける。猛々(たけだけ)しい青年を見ることの多い昨今、平和な表情の青年の姿がまぶしい、美しい。花の強さはその優しさにあるのかも知れない。

 菜種には懐かしい思い出がある。石油販売業といえば聞こえがいいが、昭和30年代の後半、「油屋」に職を得たわたしには、菜種油の記憶が鮮烈なのだ。菜種油は食品の原材料に使われ、白絞油(しらしめゆ)は揚げ油として使われ、てんぷらや炒め物用の油として使われてきたが、昔は行灯(あんどん)などの光源燃料として使用されたものである。歴史ある石油販売業者の多くは、昔から食油を商ってきたのだ。とりわけ千曲川の河川敷は、優れた菜種の生産地であった。

 江戸中期・享保18年(1733)、須坂穀町で初代新八によって穀物、菜種油、煙草、綿、酒造業などの商売を始めた田中本家。小布施を拠点に、関東、関西方面まで商圏とする、北信濃きっての豪商高井家。いずれも菜種で財を成したとされている。「観光」という表現がなかった時代には、地場の主要生産物として大切に育成し、「見せる花」に仕立て上げる信濃の国の人。往時も今も、そのしたたかさには、学ぶべきことが多いようだ。

 この地で忘れてならないのは、名歌「ふるさと」や「春が来た」「春の小川」の作詞者、高野辰之である。長野県永田村(現中野市永江)出身の国文学者は、斑山という号にも郷里への思いが込められている。数多い作品の中でも、♪菜の花畠に入日薄れ/見わたす山の端(は)霞ふかし/春風そよふく空を見れば/夕月かかりてにほひ淡し…という「朧月夜」はことに有名。近代になってさえ、信濃国の人がめでる菜の花には、異土の人にはない感性があるように思えた。

 飯山市から中野市を抜けて小布施町に至る117号線沿いには、リンゴ畑が連なっている。どうやら花の色は白からピンクに変化するものらしく、今まで黄色一色に染まった目には、優しく豊かに見えてならない。小布施にクルマを預け、折りしも善光寺の「御開帳」へと歩を進めることにした。【つづく】

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