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PJ: 今藤 泰資

北信花紀行(2) ブナの巨木、湖畔のヤマザクラにスミレは見事でも…
2009年05月09日 08:24 JST


東山魁夷画伯の「静映」に取り上げらた美観。萌え上がる新緑、湖畔にヤマザクラの小花、シロブナの巨木は天に昇る緑の柱。脚下にはスミレの大群落も(撮影:今藤泰資) 

(1)からのつづき。5月5日早朝。そろそろ雨天を予想していたが、思ったより晴れ上がった空をながめ、斑尾高原下にある「希望湖(のぞみこ)」に出掛けることにした。河川湖沼としては陳腐なネーミングだし、それより何より、10数年前に亡くした初孫の名前に近似していたから、躊躇(ちゅうちょ)したのは事実だ。とはいえホテルの朝食にはまだ早い。やむを得ずハンドルを握ることにした。

 標高850m、周囲3キロメートルの静かな水面(みなも)は、人造湖というより地元の人が「沼池」とも呼ぶ潅漑(かんがい)用水のことである。シラカバやブナ、カラマツの原生林に囲まれ、湖を周遊する遊歩道はトレッキングやバートウォッチングにも最適だという。釣り竿を持ち、黄色のライフジャケットをまとった青年に「ナニが釣れるんですか」と聞いてみたら、「バスですよ、バス」とにっこり笑顔を返された。

 実はこの人造湖、斑尾高原観光協会が、釣りとボートと周辺土地利用の権利を所有している「私有水面」。コイ、フナ、オイカワ、ワカサギ、バスなどが生息する人気の釣りスポットらしい。駆除すべき外来魚をキャッチ・アンド・リリースする釣り人の気持ちがわたしには理解できない。観光協会が立てた看板には「ゲリラ放流したバスが発見されました。釣ったバスは、必ず陸に上げ、廃棄してください」とあるから、在来魚が減少するのは当然。「希望」という名の湖に来る、釣り人の常識に期待したいところだ。

 それでも(真偽のほどは定かではないが)、東山魁夷画伯の「静映」に取り上げられ、長野県県民文化会館の緞帳(どんちょう)原画となっている美観は、なかなかのものだ。萌(も)え上がる新緑の中、湖畔にヤマザクラの小花を見つけ、シロブナの巨木は天に昇る緑の柱。脚下には、フキノトウの群落もある。スミレの大群落を発見し、タカラヅカの名歌「♪スミレの花、咲くころ」と声を発したくもなる。

 突然、深いクマザサの藪の奥から、けたたましいウグイスの声が耳元に響く…。だからこそ、「天然の美」を後人に残さねばならないはず。残す義務ありとせば、やはり外来魚の繁殖は不愉快になるのだ。ここはもういい。人造湖見物はもう結構。わたしはそう決め、早々にホテルに引き上げた。千曲川の菜の花を見よう。早く黄色に染まって、心を癒やそう。そう思うしかなかったこの日の朝であった。

 帰宅後、ネットで調べたら、斑尾高原は、長野県飯山市と新潟県妙高市にまたがっていることを知った。飯山市には、教育グリーンツーリズムの一環として、「ブナが育む農」という一項目があり、そこにはこう記されていた。

 「日本には、シロブナとクロブナ(イヌブナ)の2種類のブナがあり、日本海側の豪雪地域や寒冷地域に分布しているのはシロブナで、一般的にブナとはシロブナのことをさします。豪雪地帯の木は大きくなるまでの間に何十回もの冬を越えなくてはなりません。冬が来るたびに、雪の重みで曲げられ、地面に押し倒されますから雪国では柔らかな幹を持った木でないと生きて行けません。まさに、ブナは雪に強く折れにくいしなやかな木で、しかも折れかかったり、曲げられても完全に折れない限り春には頭を起こして葉を付けます」

 「そして、ブナは落葉広葉樹です。落葉広葉樹とは広い葉を持ち、秋になると紅葉し、冬が来る前に葉を落とす木のことを言います。雪国で木が生きていくには、秋に葉を落とすのも重要なことです。例えば葉をつけたまま冬を迎えてしまうと、葉に雪が積もりその重さで枝が折れてしまいます。また、木は根から吸い上げた水を、幹を通して葉に送っています。冬もこれを行ってしまうと、気温が下がったとき幹の中の水分が凍って膨張し、幹が割けてしまいます。これを「凍烈」と言いますが、ブナに限らず雪国に自生する木(広葉樹)にとって秋に葉を落とすことは生きていく上で大切な意味をもつのです」

 シロブナの存在の大きさは、たとえようもなく大きかったのである。【つづく】

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