PJ: 今藤 泰資
秘寺、薬王寺に行く=茨城・桜川市
2009年04月13日 05:04 JST

萌え上がるような薬王寺の「馬場先」。寂室住職は狭いこの往還をそう読んだ。どこから出てきたのか唐突にトラクターが現われ消えた(撮影:今藤泰資) 
茨城県桜川市にある薬王寺は、大同年間(806年−809年)、徳一大師の創建とさ天台宗の古刹(こさつ)である。茨城県の筑波から福島県の会津にかけて、徳一大師が開基したという寺が数多くあり、いずれも山腹の中ほど、西方に向かって立てられている。この寺もその一つ。西方浄土に向かうという意味でもあるのだろうか。大師は奈良時代の政治家・藤原仲麻呂の子と伝えられ、若くして奈良を去り東国に修行し、弊衣、粗食に甘んじ信仰の再興を志した高僧だという。
寺の存在を教えてくれたのは、薬王寺の現住職・寂室純敬(せきむろ・じゅんけい、69)さん。住職とは二度目の対面である。1カ月ほど前のこと、桜川市が主催するまちづくり懇談会の席上、「ウチの寺は春夏秋冬、いつの時期に来てもらっても、美観を楽しんでいただける」と自己紹介されていた。ならばこの寺はわたしの住む筑西市のほんの隣。暖かすぎる卯月(うづき)11日、春風に誘われて薬王寺に出向いた。
低く連なる八溝山系の再南端の山肌深く、目指す薬王寺はあった。辺り一面は春芽が萌えあがる樹木に覆われ、街道筋から折れるとまっすぐに伸びる参道がある。クルマ1台がようやく通れる道のそちこちに、古びた石碑が倒れそうに立ち、雰囲気を盛り上げている。山門の右手に砂利引きの駐車場があって、ドアを開けると砂埃(すなぼこり)が舞い上がって視野を狭めた。晴天なのに曇って見えるのは、黄砂のせいらしい。
山門をくぐると、静寂を保っていた境内のどこからか、勢いよく犬がほえる。本堂の左手に住まいがあり、唐突に住職が顔を出した。前にみたあの笑顔である。改めて自己紹介をし、取材についてのお許しを求める。「はいはいどうぞ」とまた笑顔での返事に、わたしは「まず境内の写真を撮らせてください。それから住職さんのお話を」と応じた。
樹齢数百年の古木6本のほか、10年から100年ほどの約100本が境内には配置されている。先ほどの山門は「遺堰記念門」と呼ばれ、この地に縁の深い二宮尊徳の遺業に報いるべく村人の手によって1918年(大正7年)に再建されたものだ。由来によれば、「山門の材は字(あざ)桜川の北方に二宮尊徳翁の建造に成る翁の三大遺堰の一の材料にて、大正5年8月の大洪水のために破れ現在の新堰となり以て不用となる」木材を利用したとあった。
だが境内はさほど広くはない。本堂は近年再築されたものらしく、歴史を感じさせる事物は意外に少ない。とはいえやはり、住職が自慢するのがあたりのたたずまいだ。犬の鳴きやんだ境内は静寂を取り戻し、寂として人影もない。ひっきりなしに鳴くウグイス。満開のサクラに群がるヒヨドリ。菜の花をテリトリーにするクマンバチ──。独り占めにした大自然が目の前に押し寄せる。じゅうぶん堪能したあと、本堂で寂室住職の話をお聞きすることにした。
あいさつもそこそこに、「いやあ、聞きしに勝るこの風景。本当にすばらしいですね」とまずわたし。続けて「ライトアップされているようですが、夜も開放されているので?」には「ハイ、そうなんです。昨夜も檀家さんが4、5人見えて、たいそう喜ばれました」。「特に昨晩は満月。サクラに菜の花。カエルの声にフクロウまで鳴いて」と一声置いて「こういうぜい沢はできねえべよ、極楽だっぺえと感嘆された」と夜の薬王寺風景をこと細かに語る。茨城弁丸出しでの解説には、臨場感がある。
ここから先は、茨城の商売下手、観光行政の不備をなげく僧職と研究者になって、話は、「茨城再発見」に転向、大いに盛り上がった。寺の裏山の山頂に荒廃した「まほろば公園」があり、JR水戸線大和駅からハイキングコースを整備中だという。徳一大師ゆかりの寺と一体化した観光開発を提案するわたしに「いや、ウチはモミジも見事なんですよ」とし、近くのミイラ寺として知られる月山寺(がっさんじ)や、国の重要文化財三重塔を有する富谷観音小山寺(おやまじ)などとの「モミジ廻り」を提案したが忌避されたと残念そうだ。これから、「通り一遍だが、七福神回りなどを企画し、檀家寺の汚名を廃したい」と締めくくった。
帰路、「馬場先(ばんばさき)」と住職が紹介した一直線の参道から振り返ってみた薬王寺は、深い木立に沈んで見えなかった。それでも、寂室住職の高い思いは浮かび上がって見えた。
茨城県桜川市青木の薬王寺の電話は、0296-58-6427。サクラは終わるが、新緑の本堂で住職の講話を聞くのも面白そうだ。北関東横断道・桜川筑西ICを降りて国道50号線を下館に向かってすぐの交差点を左折。ICから7、8分の距離にある。【了】
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