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PJ: 今藤 泰資

【よこ顔】結城つむぎの伝統を残したいと希う。京都生まれの若きデザイナー上村絵里加さん
2009年04月02日 10:32 JST


京都上京区の出町柳で生まれ育った絵里加さんは、京都市立美術大学の美術学部でビジュアルデザインを専攻。「美を創り、美を伝えること」を学び、同時に現場で活躍するための表現力、知識、そしてプレゼンテーション力を身につけた(撮影:今藤泰資) 

人生70年、古希を迎えてさえ心躍る出会いがあるものだ。そう感じさせたのが、京都育ちの上村絵里加(うえむら・えりか)さん。偶然の出会いの場は茨城県の結城市。地域資源の活性化を推進する茨城県のコーディネーターとして訪れた時だった。県の西端、栃木県境の鬼怒川に接する人口5万2000人少々の小さな街は、本場結城つむぎの産地として知られ、中世以来の古寺には遺物や伝承が残されている。市のホームページには、「今も残る格子戸の紬(つむぎ)問屋や蔵造りの古い家並みはロマンの舞台、嬉しい文化の息づく街」と紹介されてはいるが、ご多分にもれず閑散とした中心市街地に活気は乏しい。

この街の旧街道沿いに建つのが、つむぎの歴史を今に伝える「ギャラリー壱の蔵」。登録有形文化財の見世蔵を改造した建屋の中で、株式会社奥順の奥澤武治専務(63)は、業界の現状を、「結城つむぎの販売はここ数年、急激に落ち込んだ。いくら生産しても販売に結びつかない。着物に関心の少ない方々にも結城つむぎに触れてもらう工夫がどうしても必要」と、組合事務局長の立場から悩みを打ち明ける。奥順は1907(明治40)年の創業。正社員38人、その他従業員10人の中小企業。代表の奥澤順氏は、本場結城紬卸商協同組合の理事長を兼務する老舗だ。絵里加さんがデザイナーとして移住してからもう5年が経った。

「でもまた、どうして京都から結城へ?」。素朴でぶしつけな質問をするPJに、奥澤専務は絵里加さんの顔を見やりながら、「いやね、ウチのような会社でも大卒新人を採用しようと思いたって」と採用の経緯を丁寧に説明し始めた。2003年、リクルートが提供する就職と転職・派遣に関する情報サイト「リクナビ」に登録したところ、4人の採用予定に対して900人の応募者があった。「美大系の応募者が多かったが、まず70人に限定し、面接を開始した。ペーパーテストでも面接でも、上村は応募者中の高位置につけていたが、なんせ生まれも育ちもあの京都。結城のような田舎で過ごせるのか」。面接初回は結城本社、京都に出向いて2回、また結城に来社願っての都合3回。「こうまでしてさえ、本人の意思はどうか」、当時は疑問だったと奥澤専務は述懐する。



京都上京区の出町柳で生まれ育った絵里加さんは、京都市立美術大学の美術学部でビジュアルデザインを専攻。「美を創り、美を伝えること」を学び、同時に現場で活躍するための表現力、知識、そしてプレゼンテーション力を身につけたらしい。それでもまだまだ納得のゆかないPJに、「自分の仕事があって、生きがいのある場所だし、都心まで1時間、こんな田舎暮らしにあこがれていたんです」と柔らかな京訛(なま)りで淡々と話しかける。

とはいえ、今の絵里加さんは、デザインルームにこもり、依頼者の受注をさばくデザイナーでなない。栃木県と茨城県を流れる鬼怒川沿い7つの市町村に点在する結城つむぎ生産者の意向を「外回り」の担当社員らから聞き、注文品とオリジナルデザインそれぞれの分野ごとに発生する細かい造作を調整しなければならない。「糸つむぎ」(ムラなくつむぐ。技術の習得には数年の修行が必要)や、「直接染色」(集中力と熟練が必要とされる高度な技術)。「撚糸作業」(糸を水でぬらしながらする作業)、「高機織り」(無地、縞や縮み織りの一部には高機で製織される)など、高度な技術知識と経験が求められ、現場での調整作業が主務になってくる。

出先で相対する多くは、農家の主婦たちだ。自らの「腕」にも「技」には自信がある。訛りの多い茨城弁に京都生まれのデザイナーが戸惑ったであろうことは、容易に想像がつく。「ですからね。この人のコミュニケーション能力は一流」と太鼓判を押す奥澤専務。「5年の間にプロデューサーと、コーディネーターを兼ね備えたんだね」と褒めるPJに「着物の着付けは、先輩方に教えていただいた」という絵里加さん。昨年パリで開催した展示会では、当然着物を着用したが、「一人で着付けができました」と嬉しそうに応じる。ダークグレーが基調の質素な服装。スラリと伸びた長身はモデルになっても成功したことだろう。

明けても暮れても結城つむぎの復活再生を願っているが、「もう着物ばかり依存する時代ではなくなった」とされる昨今、衣装やインテリアといった異分野にも目を向ける奥澤専務。どうしても絵里加さんの個性を発揮させようと躍起なのも、「ヨメに行くなどと急に言われたら怖いからだ」と笑う。当の絵里加さん、休日はもっぱら「都内や宇都宮で美術館まわりです」と言い、「結城に来た当初は市内に住んでいたが、最近は小山に引っ越した」そうだ。理由は「結城の夜は真っ暗でさびしい」。奥澤専務の悩みはつきそうにない。



取材後数時間、PJのいくつかの質問に嬉しいメールが返ってきた。「父は、京都市内のディスプレィ企画、施工会社の会社員でした。母は細々とですが、家で陶芸をしています。家庭環境は子供にとっては大事だったのでしょう……。もっぱら工芸から入った「美」に興味を持ち、ものづくりをする楽しさ、すばらしさを感じてきました。地球人として、日本人として、京都に生まれた者として何ができるのかと考えたとき、着物のデザインがしたい! と強く思うようになりました。そして、縁あって、結城紬の世界に。結城紬の風合いの良さ、心地良さといった心に響くものを伝えていきたいです。どうぞ宜しくお取り計らいくださいますようお願い申し上げます」。

絵里加さんのキャラクターを、伸ばしてやりたいと心から願うこの日の取材。若者の能力を活かすも殺すも大人次第だ。重苦しい経済環境を乗り越えて打開策を図る経営者。意欲を懸命に受け継ごうとする若いデザイナー。まだまだわが日本国、捨てたものではない。

お知らせ

奥順結城つむぎ館では、「結城つむぎ着付け体験」を開催中。
実施日:3月28日(土)、4月5日(日)、4月11日(土)、4月21日(火)
定員:各日10人
時間:午前9時半から午前11時半まで(30分ごとに受け付け)
内容:着付け体験(着用時間一時間)、お抹茶・お菓子・記念撮影付き
費用:3000円
申込方法:つむぎの館(電話:0296-33-5633)

春の展示会「山笑う」
期間:4月20日から5月6日まで
場所:つむぎの館 陳列館1F
無地・縞を中心に、春の野山のような素朴で力強い布の質感を表現。期間中の特典も。

新作小物の展示
期間:4月1日から
場所:カフェ&ギャラリー壱の蔵
結城紬を贅沢に使用した、新作バッグのお披露目。着物とはまた少し違う結城つむぎの魅 力と、4月半ばからは浴衣染め体験もはじまる。

【了】

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