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PJ: 今藤 泰資

【よこ顔】湖岸文化の再生を願う。老舗料亭の若旦那堀越礼さん(下)
2009年03月26日 08:41 JST


第二次世界大戦中、霞ケ浦から出撃した海軍航空隊将校らが落書きをした屏風。死を目前にした痛々しい記録が、霞月楼には多数残されている(撮影:今藤泰資) 

(上)からのつづき。120周年の催事を企画する立場からは、どうしても土浦市内で屋形船を浮かべ、自慢の料理を味わってもらいたかった。だが、明治に戻って屋形船を町中の堀から運航させるわけにはゆかない。叔父の雄二氏に相談したら、「茨城県で、地域活性化事業について新しい制度があるらしい」と教えられた。それが、「いばらき産業大県創造基金」だった。

豊かな地域資源や最先端の科学技術を活用した新事業から、新時代に対応した生活支援サービスといった地域密着型の事業など、多様な中小企業の取り組みを支援し、経済の活性化を図る目的で造成された制度だ。その中に、観光資源などの地域産業資源などを活用した「いばらき地域資源活用プログラム」があり、農林水産物,観光資源などの地域産業資源等を活用した事業計画の作り込みを支援するという項目があった。「ウチの目的にかなった制度!」、そう思ったので早速応募した。手続きは煩雑だったが、めでたく認定第1号となって注目を浴びた。

その日から、若旦那の動きが変わった。県の中小企業を振興する出先の担当者や、国の支援組織の方々との話し合い。水郷潮来で運航中の屋形船の借用交渉。土浦港にあるマリーナ関係者との意見交換。国土交通省の出先との調整。慣れない提出書類の作成。全国一と評判の土浦名物「花火大会」関係者からのヒアリング。それに何より気を払った霞月楼レシピの完成──。ようやく間に合った花火大会湖上見物の観光屋形船は、大成功だった。1万8千円という高額料金にもかかわらず、乗船したお客さんから、「船って、思ったより揺れないものだ」「来年もぜひ乗りたい」「豪華な気分を味わえた」というアンケート調査の結果はうれしかった。

産業大県創業基金には先進地調査に対する補助金制度もあり、叔父の雄二氏ら数名と島根県の松江と隣の鳥取県米子を訪問した。土浦商工会議所を通じて綿密な計画を立てたが、何かと制約の多い調査旅行の中で多くを学び、とりわけ当地での「水際線の利用と活用」には目を見張った。衝撃だったのは、「水との距離が近いこと」。雄二氏は、「宍道湖湖畔のビルもホテルも民家も、皆湖に向いている」と表現し、調査に同行した大学関係者からは、「夕日さえも観光資源になっている」と聞かされた。出雲の国島根県は、その名のとおり年中雲の出る土地。平地の少ないこともあってか、なるほど「宍道湖の夕日」は見事であった。

「宍道湖七珍」の代表選手のシジミ料理の多様さと、それ以上にこの汽水湖の豊富さがうらやましかった。松江商工会議所の観光振興推進チームの高尾健司さんからも、米子市の観光ボランティア山枡敏雄さんからも、「汽水湖の淡水化反対運動」の成果を聞き、淡水化してしまった霞ケ浦の現状に思いを深めた。宍道湖観光遊覧船の社長の上谷繁夫さんからは、観光船運航の技術的な示唆をえた。わけても「観光船で、お客さんを船酔いさせることは厳禁だ」とし、「それより何より安全第一。小さな不安があれば運航してはならない」という言葉がもっとも耳に残った。先進地視察は成功だったが、それ以上に「他国の人を迎え入れる心」を学んだような気がする。

創業120年の老舗料亭・霞月楼。ホームページには、「長い歴史の中で各界の著名人、文人墨客に愛されて参りました。受け継がれる、洗練された技とおもてなしの心を静寂な日本間でごゆるりとご堪能下さい」とある。そのブログに、堀越さんは、自らを「ばんとーさん」と位置付けている。若旦那であることに違いはないが、そう呼ばれるのは不本意。常々、「料亭稼業は女性が前に出る商売ですから」が口癖なのも、祖父恒二さんの薫陶によるのものだ。先日ある先輩から、「孫生え(ひこばえ)」という言葉を教えてもらった。ひこばえとは、伐採された樹木や、倒木の幹から生える新芽のことだ。創業120周年を目前にした昨年5月、「祖父恒二が亡くなりましたが、生まれ代わりのように長女智朝(ちさ)が生まれました」。

今からちょうど80年前の1929年(昭和4)8月、全長237メートルもあるドイツの巨大飛行船「ツェッペリン伯号」は、世界一周飛行の途中、中継基地となっていた霞ケ浦海軍航空隊飛行場(現陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地)に飛来した。その時、堀越恒二という一人の少年が飛行船に乗船した。それが祖父の恒二氏であった。恒二少年の思いは、今土浦市の「飛行船を利用した町づくり」や、「土浦ツェッペリンカレー」として生かされている。第二次大戦中、海軍航空隊があった霞ケ浦。当時特攻で出撃する若い軍人たちが霞月楼によく見えた。考えて見れば、金太郎飴のように「どこを切っても水に縁深い料亭」。だからこそ、今度は自分の番だとの気概を持つ堀越礼さん。表面は華やかでも、料亭稼業は気軽な気持ちで維持できる時代ではない。湖岸文化の再生を願う老舗料亭の若旦那の挑戦は、始まったばかりだ。

料亭霞月楼「屋形船復活プロジェクト」
昼の部は午後0時半(午前11時集合)、夜の部は午後5時(午後4時集合)。運航は約2時間。
集合場所:霞月楼(土浦市中央)
募集定員:ペア30組60人(応募多数の場合は抽選)
*ただし、乗船後アンケート調査に協力できる人
応募方法:ハガキに住所・氏名・年齢・性別・電話番号・希望の乗船時間(昼の部・夜の部)、「土浦と霞ケ浦、桜について」一言メッセージを明記の上、
〒300-0043 茨城県土浦市中央1-5-7 料亭霞月楼「屋形船復活プロジェクト」係まで
締め切り:3月28日(土)
問い合わせ:029-822-2516(料亭霞月楼)

【了】

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